新車試乗記

バッテリーで80km走行

三菱自動車 アウトランダーPHEV

【スペック】

全長×全幅×全高=4710×1860×1740mm▽ホイールベース=2705mm▽車重=2110kg▽駆動方式=4WD▽エンジン=2359cc水冷4気筒DOHC、98kW(133馬力)/5000回転、195Nm(19.9kg)/4300回転▽モーター=前輪85kW(116馬力)/255Nm(26.0kg)、後輪100kW(136馬力)/195Nm(19.9kg)▽ハイブリッド燃料消費率=16.2km(WLTCモード)▽EV走行換算距離=83km▽車両本体価格=532万700円(Pグレード、7人乗り)

【試乗車提供】

和歌山三菱自動車販売田辺店
(田辺市新庄町1934、0739・22・5019)

[2022年3月10日 UP]

 三菱自動車の新型アウトランダーPHEV(プラグインハイブリッド)は、バッテリーに充電した電力で80km以上走ることができるSUV(スポーツ用多目的車)。前輪と後輪を駆動する二つのモーターを搭載。バッテリーの状態に応じてエンジンによる発電も組み合わせて走り、長距離ドライブでも「電欠」の心配がない。

災害時に12日間電力供給


 PHEVは、自宅に設置した充電設備や急速充電スタンドを利用することで、バッテリーのみで一定距離を走行することが可能。さらに、エンジンで発電してモーターに電力を供給したり、バッテリーに充電したりできる。アウトランダーには、エンジンで車輪を駆動しモーターで補助する仕組みもあり、走行条件やバッテリーの状態によって車が自動的に使い分ける。
 フル充電したバッテリーで走ることができる距離の目安は83km(WLTCモード)。オーナーによると、電力料金の安い夜間に充電しておけば、通勤や日常の買い物などはほぼ電力だけで賄えてしまうという。ガソリン高騰の折、経済的だ。充電だけで走るBEV(電気自動車)は遠出の際にバッテリー残量を気にしたり充電スタンドの場所を常に確認したりしなければならないが、「動く発電機」でもあるPHEVはそういった心配がない。
 アウトランダーは、運転者がバッテリーの残量をコントロールできるよう、四つのEVモードを備えている。ノーマルモードは、車がバッテリーからの電力とエンジンの発電による電力をバランス良く制御。EVプライオリティーモードは、できるだけエンジンをかけずに、バッテリーに蓄えた電力を使って走る。バッテリーセーブモードは、切り替えた時点のバッテリー残量を維持。バッテリーチャージモードは、走行中でも停車中でも、エンジンの発電で満充電近くまで電力を蓄える。
 車内には100VAC電源(1500W)のコンセントを二つ備えており、キャンプで調理器具などを使うことが可能。また、住宅とEVを接続するV2Hという機器を自宅に設置すれば、災害などで停電しても最長で12日間、家庭用電力を供給することができる。

上質な内装


 アウトランダーには三つのグレードが設定されており、車両本体価格は約462万~532万円。このうち最上級のP(7人乗り)に試乗車した。販売店やメーカーによると、販売台数の6~7割をPグレードが占めるという。
 フロントデザインは、ヘッドライトが縦に並んだ三菱独自の「ダイナミック・シールド」。強烈な存在感の中に高級感を漂わせている。
 内装は上質だ。耐久性の高い塗膜をコーティングした高級素材「セミアニリンレザー」を使用した本革シートは、運転で疲れた腰や背中をもみほぐすマッサージ機能まで備えている。
 走行モードは7種類あり、手元のダイヤルを回して切り替える。通常の走行はノーマルか、燃費(電費)を重視したエコで十分。そのほかに、乾いた舗装路をきびきび走るターマックや雪道に適したスノー、スタックした際の脱出性に優れたマッドなどがある。

ほぼ電気自動車


 アウトランダーの走りは「ほぼ電気自動車」と考えていい。試乗の最中にエンジンの存在を意識することはほとんどなかった。
 試乗車のバッテリーは満充電の状態になっており、EV走行が可能な距離は82kmと表示されていた。ドライブモードは「エコ」を選択。モーターだけで走るので、走りだしは静かで滑らかだ。車重が2tを超えるので、乗り心地は重厚。運転席が高いので見晴らしが良く、ボンネットもしっかり見えるので車幅感覚をつかみやすい。車内の静粛性も高く、荒れた路面を走っても騒音の侵入は最小限だ。
 アウトランダーは、アクセルを戻すことで強く減速する「ワンペダルドライブ」が可能だ。この機能はメーカーによって名称が異なり、三菱ではイノベーティブペダルオペレーションモードと呼んでいる。シフトレバーの横にあるボタンを押すことで通常モードと切り替えることができる。制動力はかなり強く、急にアクセルを戻すと頭を前方に持って行かれるぐらい減速する。
 足回りは柔らかめで、サスペンションのストロークは大きい。背が高い重量級の車体にもかかわらずカーブではロール(横傾き)が小さく、ステアリングを切り込んだ方向にすっと向きを変えていく。
 この素直な操縦性は、重いバッテリーを床下に配置して重心を下げていることと、三菱独自の車両運動統合制御システム「S-AWC」によるものだ。S-AWCは、ドライバーの操作と車両の状態をセンサーが検知し、前後輪への駆動力の配分やブレーキの制御を行い姿勢を安定させたり、回頭性を高めたりする。
 動力性能を確かめるため、上り坂でターマックモードを試してみた。切り替えると、一気に車重が軽くなったように軽快に走り、上り坂でも平地のように加速する。アクセルを強く踏むとエンジンが回り発電するが、遮音が行き届いているため室内に入り込んでくる騒音は小さい。軽やかな音が遠くに聞こえるという程度だ。
 高速道路では、先行車との車間を保ったり、車線の中央を走るように補助したりするマイパイロットを試した。ACC(オートクルーズコントロール)は小型車や軽自動車でも標準装備になりつつあるが、表示が小さくて設定状態が分かりにくい車も少なくない。アウトランダーは、作動状況がメーターパネルに大きく表示されるので安心だ。
 マイパイロットを解除しても、直進安定性は十分。高速走行のロードノイズも小さく、クルーザーに乗っているような気分で運転していられる。
 アウトランダーは、かつて、オフロードタイプでありながら高級車として人気を博したパジェロの再来を思わせた。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴47年。紀伊民報制作部長