子どもの乗り降りが安心
軽ワゴンの元祖「ワゴンR」の車高が1650mm、人気のスーパーハイトワゴン「スペーシア」が1785mmであるの対して、スマイルは1695mm。ワゴンRに比べて車高は45mm、室内高は65mm高くなっている。車内の頭上空間は「余裕はあるけど広過ぎない」という「ちょうどいい高さ」になっている。
後席に採用されたスライドドアは、スペーシアと同等の600mmの開口幅があり、床も低いので乗り降りしやすい。スライドドアのメリットは、駐車場で隣の車との間隔が狭いときでも乗り降りがしやすく、さらにドアを開ける際に隣の車にぶつけてしまう「ドアパンチ」の心配がないこと。特に、子どもを後席に乗せているときや、風の強い日には安心だ。
一方で電動のパワースライドドアは、開け閉めに時間がかかるという弱点がある。スマイルには、ドアが閉まる動作中にリクエストスイッチや携帯リモコンでロックを予約できる機能が採用された。
内装は、コストが厳しい軽乗用車にもかかわらず上手に仕上げている。運転席に座るとまず目に入るのは、大きなスピードメーター。ワゴンRは、インパネの中央にメーターを配置する「センターメーター」のレイアウトを採用しているが、スマイルでは運転席正面に戻された。
内装の色は、黒を基調にステアリングやシフトノブ、メーター周りにアイボリーをあしらい、エアコンの吹き出し口やドアノブの周囲に黄金色のアクセントを付けている。インパネやドアトリムの素材はプラスチックだが、革を手縫いしたようなステッチ風の模様を施すことで質感を高めている。
収納や使い勝手は、ドリンクホルダーに牛乳パックが入るようになっているなど、スズキらしい細やかな気遣いが感じられる。
後部座席は、大人の男性でも足が組めるほど広い。シートは前後にスライドさせて荷室のスペースを調節することが可能。シート表面の質感もいい。
全方位モニターで死角なし
試乗車は、上級グレードのハイブリッドX。全車速追従のアダプティブクルーズコントロール(ACC)やヘッドアップディスプレーなどがセットになったセーフティープラスパッケージ・9インチ全方位モニター付きメモリーナビゲーション(23万1000円)がメーカーオプションとして装着されていた。
エンジンを始動すると、全方位モニターには車の周囲をぐるりと見渡す映像が映し出される。発進時に前後・左右の安全を死角なしに確認できるので安心だ。
さらに、スズキ車として初めて採用されたのが「すれ違い支援機能」。狭い道を走っていて時速5㌔以下のスピードで対向車とすれ違う際に、車の左側と前方の映像を自動切り替えで映し出す。
視界の悪い狭い路地から大通りに出るときや駐車場からバックする際に車や人が近づいてくることを知らせてくれる「左右確認サポート機能」も心強い。
衝突被害軽減ブレーキや誤発進抑制機能など、基本的な安全運転支援機能は全車に標準装備されている。
ソフトな乗り心地
パワーユニットは、最高出力49馬力の自然吸気エンジンと2.6馬力のモーターを組み合わせたマイルドハイブリッド(HV)。モーターは出力が小さいので、発進時にぐっと押し出すほどの力強さはない。最大のメリットはアイドリングストップからの静かな再始動。音もなくスムーズにエンジンがかかるので気持ちいい。
スライドドアを採用した車はどうしても車重が重くなり、パワーに余裕があるターボ車が欲しくなるが、スマイルは870kgと軽量。49馬力のエンジンでも過不足なく走ることができる。加速時のエンジン音は大きめだが騒がしいというほどではなく、一定速度で走っているときの室内は静かだ。
きつい上り坂ではさすがにパワーに余裕がなく、山道を走っているとターボエンジンが欲しくなるかもしれないが、残念ながらスマイルにはターボの設定はない。
足回りは柔らかく、市街地では乗り心地が良い。荒れた路面のざらざらした感触も適度に吸収してくれる。半面、カーブで車が外側に引っ張られるアンダーステアは強めだ。
外装は、白いホイールカバーがおしゃれ。ハスラーやスペーシアギアに共通する丸形のヘッドランプは正面から見るとかわいらしい。総じて、「女性好み」の仕上げを意識しているようだが、車に力強いデザインを求める女性も少なくない。男性ユーザーにアピールすることも含めて、ターボを搭載したカスタム系のバリエーションがあれば幅広い層に支持されるのではないだろうか。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴46年。紀伊民報制作部長