新車試乗記

上級車しのぐ乗り心地

トヨタ アクア

【スペック(Xグレード)】

全長×全幅×全高=4050×1695×1485mm▽ホイールベース=2600mm▽車重=1120kg▽駆動方式=FF(前輪駆動)▽エンジン=1490㏄直列3気筒DOHC、67kW(91馬力)/5500回転、120Nm(12.2kg)/3800~4800回転▽モーター=59kW(80馬力)、141Nm(14.4kg)▽トランスミッション=電気式無段変速機▽燃料消費率=34.6km(WLTCモード)▽車両本体価格=209万円

【試乗車提供】

ネッツトヨタ和歌山・田辺店
(田辺市新庄町1895、0739・22・4979)

[2021年9月9日 UP]

 トヨタは、ハイブリッド(HV)専用の小型車「アクア」をフルモデルチェンジし、7月に発売した。新開発のニッケル水素電池を採用することで、加速性能やアクセルを踏んだ際の反応が大きく向上。モーターで走る領域も広がり、乗り心地や静粛性は1クラス上の車をしのぐほどに進化した。

滑らかな走り


 「走りだしが静かで滑らか。上質な車になった」というのがアクアを走らせての第一印象。排気量1~1.5リットルのコンパクトカーは進化が著しく、昨年フルモデルチェンジしたホンダ・フィット、トヨタ・ヤリス(旧ヴィッツ)、日産ノートなどはいずれも、燃費や走行性能、乗り心地などが格段に良くなった。
 ヤリスは、コンパクトカーならではのきびきびとした操縦性と、リッター30kmを超える驚異的な燃費が特徴。フィットは、車体の大きさからは想像できないほどの広い室内を実現。ノートは、エンジンで発電しモーターで走行する「電動車」ならではの滑らかな走りが持ち味だ。
 新型アクアのパワーユニットは、最高出力91馬力の1.5リットル直列3気筒エンジンと80馬力のモーターの組み合わせ。エンジンとモーターはヤリスと共通だが、アクアの方がモーターの存在感が強く、パワーの立ち上がりも力強い。
 走りだしはとても静かで滑らか。モーターによる走行領域が上がっていることもあって、交通の流れに乗る程度の加速では、どこでエンジンがかかったのか分からないほど。
 それ以上に驚いたのは、アクセル操作に対するモーターの素早い反応だ。追い越し加速でアクセルを深く踏み込むと、瞬時にモーターのトルクが立ち上がり、後ろから押し出されるように加速。少し遅れてエンジンの元気な回転音が聞こえてきて、鋭い加速が続く。中速域での瞬発力は「一般道ではこれ以上の性能は要らないだろう」と思わせるほどだった。
 バイパスや高速道路への合流も自在。上り坂でも、排気量の大きい車に乗っているような力強さを発揮する。
 コンパクトカー離れしたこの動力性能を支えているのが、新開発のバイポーラ型ニッケル水素電池。モーターに大きな電流を一気に流すことが可能で、従来型アクアの電池に比べて約2倍の高出力を実現している。
 またトヨタのHVでは初めて、アクセルを緩めることで強めの減速が得られる「快感ペダル」が採用された。日産のeパワードライブと同様の機能だが、その効果や使い勝手はどうだろうか。
 快感ペダルは、走行モードを「パワー+モード」にすると動作する。eパワードライブは、アクセルを戻すとブレーキペダルを踏んだように強く減速し、ほぼ停止に近い状態までつま先だけで車速をコントロールできる。それに対してアクアは、低いギアでエンジンブレーキをかけたときのように穏やかな減速。市街地で先行車との車間距離を保つときや、カーブの入り口でやんわりスピードを落としたいときなどにちょうどいい効き加減だ。きついカーブが続く下りの山道でも、ブレーキを踏む回数をずいぶん減らすことができた。
 一方で、ブレーキペダルの代わりになるほどの強い減速は得られないので、アクセル一つでコーナーを攻めていくというような積極的な走りまではできなかった。

先代のデザインを継承


 外観は、一目で「アクア」と分かるほど先代のスタイルを引き継いでいる。ヤリスと同様に豊かに膨らんだリアフェンダーにより、柔らかさとともに、タイヤが四隅に踏ん張っているような力強さも表現している。
 真横から見るとフロントウインドーの傾斜がかなりきついが、運転席に座るとほとんど気にならない。左右の三角窓が大きいので斜め前方の見切りも悪くない。
 内装にはプラスチックを多用していて、高級感はあまりない。リアシートは先代のアクアに比べて膝前、頭上とも余裕がある。身長172cmのリポーターに運転ポジションを合わせて後席に乗り込むと、膝前には握り拳縦一つ分の余裕ができる。広々というほどではないが、決してきゅうくつではない。車高が低いにもかかわらず、頭上にも握り拳縦一つ分の空間があった。
 後席の窓は後方で跳ね上がっているデザインだが、斜め前方を見る分には視界は妨げられず、上手な処理だと思う。ただ、子どもや小柄な人は外が見にくいかもしれない。
 荷室は、HVの大きな電池を積むにもかかわらず深さがたっぷりあり、奥行きも656mmと十分。小さいサイズの車としては使い勝手が良さそうだ。

リッター30km超えも


 新型アクアの足回りは柔軟で、路面の補修跡やマンホールの凹凸などを上手にいなしてくれる。このサイズの車としては、とても乗り心地がいい。ソフトな足回りにもかかわらずハンドリングは素直で、車体がカーブの外側に引っ張られるアンダーステアも弱い。最上級グレードのフロントには、低速域の乗り心地がさらに良くなるスイングバルブショックアブソーバーを採用している。
 高速道路の直進安定性も良く、走行音が静かなのでリラックスして運転していられる。電池残量に余裕があれば、時速70kmでもモーターだけで走行する。
 短時間の試乗ながらも、燃費の良さを実感した。試乗車のカタログ燃費はガソリン1リットル当たり34.6km(WLTCモード)。高速道路半分、残り半分は市街地と郊外というコースで、試乗が終わるころには車載燃費計の表示が34kmを超えていた。トヨタのHVは市街地や郊外での燃費がいいので、日常の使用で30km台をマークするのも難しくなさそうだ。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴46年。紀伊民報制作部長