同色グリルで独特の雰囲気
初代ヴェゼルは2013年12月に登場。クーペのような滑らかなデザインから、都市型SUVとして人気になった。2代目は、クーペスタイルを継承しながら水平基調のデザインを採用。車体と一体になった同色のグリルは、これまでのSUVにない独特の雰囲気を醸している。
動力源はe:HEVと、1.5リットルガソリンエンジン(最高出力118馬力)の2種類。e:HEVは、最高出力106馬力の1.5リットルエンジンで発電し、131馬力、最大トルク25.8kgのモーターで車輪を駆動する。また、モーターの効率が悪い高速道路では、エンジンと駆動輪を直結して走行する。
昨年発売されたフィットのe:HEVと比べると、発電用エンジンの出力は8馬力アップ。バッテリーを強化することでモーターの出力は22馬力も上がっている。これにより、滑らかで力強い走りを実現した。
車両本体価格は、ガソリンエンジンを搭載したGグレードの227万9200円から、e:HEVの最上級グレードPLaY(FF)の329万8900円まで。4月23日の発売から1カ月間の受注は月間販売計画の6倍を超える3万2000台。このうちe:HEVの中間グレードZが76%を占めているという。
電気自動車に近づく
試乗したのは、一番人気のグレードであるZの前輪駆動(FF)モデル。モーターでの走りだしは静かで滑らかだ。モーターはアクセルの開閉に素早く反応し、大きな駆動力がすっと立ち上がる。同じe:HEVを採用しているフィットはアクセルを踏んでから加速するまでに少し遅れが感じられ、速度の上昇もゆったりしていたが、ヴェゼルはその欠点が解消されていた。
また、フィットはアクセルの踏み具合に応じて早めにエンジンが始動し、モーターで走っているにもかかわらずエンジン車のような味付けになっていた。それに対してヴェゼルは電動車(EV)にずいぶん近づいた。
バッテリーが強化されたので発電用エンジンが停止している時間が長く、また、遮音が行き届いているのでエンジンが回っているときでも室内は静かだ。上り坂や急加速でアクセルを深く踏み込むとエンジンが高回転まで回るが、その音質は軽快。バッテリーによるEV走行時にはエンジンの音がしないので、相対的に路面からの騒音が気になるかもしれない。
足回りは腰があり、工事の補修跡など路面の継ぎ目を通過したときのショックも上手にいなしてくれる。ステアリングを通じて、常にタイヤが路面に張り付いているようなねっとりした手応えが伝わってくる。この感触は、純正で採用したミシュラン社のタイヤの特性もあるかもしれない。
安全運転を支援するホンダセンシングは、高速道路での制御が自然だ。車線を維持する機能はメーカーによっては、常にステアリングの修正を繰り返していて落ち着きがないものもある。ホンダセンシングはステアリングにずっしり重みが加わり、自然に車線を維持してくれる。
後部座席も余裕たっぷり
ヴェゼルの後部座席は広く、身長172cmのリポーターが座ると膝の前に握り拳が縦二つ半入る。小柄な人であれば足を組むこともできそうだ。シートの素材は、座面が布地で縁が人工皮革。窓の下端は高めだが圧迫感はほとんどない。左右の座席の真ん中には大きめの肘掛けを出すことができ、ゆったりくつろげる。後部座席用のエアコン吹き出し口とスマートフォン充電端子もある。
試乗車のテールゲートは、車体の下に足をかざすだけで開くハンズフリータイプで、予約クローズ機能付き。荷室は、奥行きがたっぷりある。後部座席の背もたれを前に倒すと荷室が完全にフラットになるのも使いやすい。
新型ヴェゼルは、静かで乗り心地がよく、運転しやすく、車体の大きさが手頃で室内も広い。短時間の試乗の範囲では、これといった欠点のない、バランスの取れた車に仕上がっていると感じた。
ライバルとなるトヨタのヤリスクロスと比べると、室内の広さと静粛性はヴェゼルが勝る。ヤリスクロスのハイブリッドはエンジンが3気筒なので、モーター走行からエンジン走行に切り替わった際の落差が大きい。一方で燃費性能はヤリスクロスの方が優れている。
走行感覚は、日産のキックスが最もEVに近く、ヴェゼルはキックスとヤリスクロスのちょうど中間になる。蛇足になるが、フィットにもヴェゼルと同等のモーターとバッテリーが欲しくなった。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴46年。紀伊民報制作部長