台形デザインを継承
ホンダ初の軽自動車N360が誕生したのは1967年。現在の軽より2回り小さい全長2995mm、全幅1295mmの車体に大人4人が乗れるよう、台形のデザインを採用した。エンジンは360㏄、31馬力。その愛らしい姿から「Nっころ」の愛称で親しまれた。
初代N-ONEは2012年に登場。N360のイメージを引き継いだ、角張った台形のデザインと丸いヘッドライトが特徴。2代目はバンパーとフロントグリルを垂直に立てたり、ヘッドライトを彫りの深いものにしたりしているが、新型と言われなければ初代と見分けが付かないほど似ている。
車種構成は、ベースモデルの「オリジナル」、アルミホイールやLEDフォグライトなどを装備した「プレミアム」、軽自動車初の前輪駆動(FF)ターボと6速手動変速機(MT)の組み合わせが選べる「RS」の3タイプ。
標準装備の安全運転支援システム「ホンダセンシング」は充実した内容。衝突被害軽減ブレーキや誤発進抑制機能、歩行者事故低減ステアリングをはじめ、6速MT車にも高速道路や自動車専用道で車速や車間を一定に保つACCと車線維持支援システム(LKAS)を採用した。自動無段変速機(CVT)搭載車のACCは、先行車が停止するのに合わせて自車も停止する渋滞追従機能を備えている。
また、リアバンパーに設置した四つのセンサーで後方の障害物接近を検知するパーキングセンサーシステムや、一時停止した際にブレーキペダルから足を離しても停止状態を保つオートブレーキホールド機能、指一本でパーキングブレーキが掛けられる電子制御パーキングブレーキも全車に装備している。
エンジンは最高出力58馬力、最大トルク6.6kgを発生する自然吸気エンジンと、64馬力、10.6kgのターボエンジンを設定。ベースグレードの「オリジナル」でも安全機能も含めて、充実した装備になっている。
中身は刷新
新型N-ONEと対面した第一印象は「どこが変わったの」というものだった。しかしよく見ると、同じ台形のシルエットながらすっきりした感じが伝わってくる。さらに実際に乗ってみると、足回りや乗り心地、内装やシートなど、中身が大きく変わったことが分かる。
フロントシートは、運転席と助手席が独立したセパレートタイプで、ベンチ型のシートに比べて体をしっかり支えてくれる。アイボリーのシート地はバックスキンのように滑りにくく、サイドと背面は人工皮革のような仕上げ。軽自動車としてはぜいたくなシートだ。
ダッシュボードやドア周りなどにはコストの関係でプラスチックを多用しているが、しぼ風の仕上げを施すなど上手に処理しているので安っぽく感じない。
速度計と回転計はシンプルなアナログ式。インパネから突き出たシフトノブの右側には電子制御パーキングブレーキとオートブレーキホールドのボタンが付いている。
ステアリングの右側にはACCやLKASなど走行支援関係のスイッチ、左側にはオーディオや情報表示の切り替えスイッチがあり、このあたりは高級車と変わらない。
また、軽自動車として初めて採用されたのが、後部座席に載せた荷物の置き忘れを知らせるリアシートリマインダー機能。後席ドアの開閉記録をもとに同乗者や荷物がある可能性をメーターの表示と音で知らせる。
後部座席は、ワゴンタイプのN-BOXやN-WGNのように足が組めるほど広くはないが、大人2人が座るのに十分なスペースがある。座席のスライド機能はないが、荷室は十分な奥行きがあり、後部座席とスペースのバランスが取れている。
荷室の床は座席の背もたれを倒すと完全にフラットになる。また、後部座席の座面をワンタッチで跳ね上げれば、観葉植物など背の高い荷物を後席に載せることもできる。このシートアレンジの自由度は、燃料タンクを運転席の下に配置したホンダ車ならではのものだ。
穏やかな乗り心地
試乗車のグレードは自然吸気エンジンを搭載した「オリジナル」。ミッションはCVT。運転席に座ると、トールワゴンほどではないが、目線は高め。エンジンの音は静かでまろやかだ。走りだしの走行モードはまず「エコ」から。エンジンは低速から十分なトルクがあり、回転を低く抑えながらスムーズに加速していく。足回りは柔らかめで乗り心地がよく、タイヤから伝わってくる振動もソフトに感じる。路面がざらついた所を走っても乗り心地が良く、「いい車に乗っている」という印象を与えてくれる。
アクセルを深く踏むと、エコモードでも直線的に速度を増すが、絶対的なパワーはやや足りない。山道や追い越しで瞬発力が必要なときには、エコモードを解除すればエンジン回転が高めに保たれ活発に走ることができる。重心が低いので、柔らかい足回りにもかかわらずカーブでのロール(車体の横傾き)が少なめで、操縦性も素直だった。
電子制御のパーキングブレーキは、アクセルを踏めば自動で解除されるので使いやすい。また、信号待ちなどで停止状態を保ってくれるブレーキホールド機能は、動作中にインパネに表示が出るので安心だ。マルチインフォメーションディスプレーにはこのほか、制限速度の表示や、駐車の際にタイヤの向きを示す表示もある。
高速道路での直進安定性もよかった。びしっと真っ直ぐに走るというよりも、軽快な中に落ち着きを感じ、安心して走ることができる。室内は高速道路でも静か。全車速追従のACCが装備されていることもあり、長距離ドライブをしてみようという気にさせてくれる。
N-ONEは、丸形ヘッドライトの周囲が昼間でもリング状に白く光るデイタイムランニングランプを採用。右左折でウインカーを操作すると、そのランプがオレンジ色に点滅してかわいらしい。最近は目つきの鋭いデザインの車が多いが、外観も運転した印象も穏やかで、ほっとする車だ。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴46年。紀伊民報制作部長