新車試乗記

静かに、滑らかに

日産 ノート

【スペック】

全長×全幅×全高=4045×1695×1520mm▽ホイールベース=2580mm▽車重=1220kg▽駆動方式=FF▽発電用エンジン=1198cc水冷3気筒DOHC、60kW(82馬力)/6000回転、103Nm(10.5kg)/4800回転▽モーター=85kW(116馬力)2900~10341回転、280Nm(28.6kg)0~2900回転▽燃費=28.4km(WLTCモード)▽車両本体価格=218万6800円

【試乗車提供】

日産プリンス和歌山販売田辺支店
(田辺市上の山1丁目8の16、0739・22・8132)

[2021年3月11日 UP]

 日産自動車の新型ノートは、エンジンで発電しモーターで走るコンパクトカー。モーターならではの滑らかな加速とエンジンの存在をほとんど意識させない静粛性、しっかりした乗り心地はコンパクトカーの水準を大きく引き上げるものだ。

進化したeパワー


 ノートは2005年に初代が登場し、12年に2代目にバトンタッチした。それから4年後の16年に電動駆動のe-POWER(パワー)を搭載し、一躍ベストセラー車になった。
eパワーは、1.2リットルのガソリンエンジンで発電し、車輪の駆動はモーターが受け持つ「シリーズハイブリッド」(HV)と呼ばれる方式。国内では、ホンダや三菱自動車も採用している。
 ノートのフルモデルチェンジに合わせて、eパワーも第二世代に入った。発電用のエンジンは最高出力が79馬力から82馬力に向上。モーターも最高出力109馬力/最大トルク25.9kgから、それぞれ116馬力/28.6kgにパワーアップしている。
 さらに大きく進化したのは発電の制御プログラム。車内に入り込むエンジンの音が気にならないように、路面が荒れているなどして走行の騒音が大きいときに発電してバッテリーに蓄電。路面状況がいい静かな場所ではアクセルの開き具合にかかわらず、できるだけエンジンをかけないようにしている。この効果は大きく、メーターの表示を見なければいつエンジンが回っているか分からないほど車内は静かだ。
 先代のノートは、アクセルを戻すと回生ブレーキで減速し、ブレーキペダルを踏むことなく完全停止できる「ワンペダルドライブ」で評価を得たが、こちらの制御にも手が加えられた。アクセルを戻すと強く減速するのは変わらないが、完全停止はせず、止まる直前でブレーキを踏む方式に改められた。
 ワンペダルドライブは操作に慣れた人には使いやすかったが、初めて運転すると停止線のずいぶん前で止まってしまったり、車庫入れや切り返しでぎくしゃくしたりした。完全停止の機能をなくしたことには賛否両論あるが、試乗ではより使いやすくなったと感じた。
 ブレーキには自動保持機能があるので、信号待ちなどで一度踏めば、足を離しても停止状態を保ってくれる。その間ブレーキランプが点灯していることをメーターで確認できるので安心だ。再発進に解除の操作は不要で、アクセルを踏むだけでいい。
 eパワーのドライブモードはスポーツ、エコ、ノーマルの3種類。ノーマルモードは一般的なCVT(自動無段変速機)と同様の制御が行われる。アクセルを緩めてもブレーキは利かないので、初めて運転する人でも自然に操作することができる。
 エコモードは回生ブレーキが利き、減速時にエネルギーを効率的に回収する。燃費がいいので、日常の走行に適している。スポーツモードは加速がより力強くなり、回生ブレーキの利きも強くなる。アップダウンの激しい曲がりくねった山道でもアクセルペダルだけで速度を調節でき、右足をブレーキペダルに踏み換えることなく走ることができる。

プロパイロット装着4割


 先代のノートにはガソリン車が設定されていたが、3代目はeパワーのみの設定。グレードはF(車両本体価格205万4800円)、S(202万9500円)、X(218万6800円)の3タイプで、8割を超える購入者が最上級のXグレードを選択しているという。ナビゲーションと連動した運転支援システム「プロパイロット」(メーカーオプション)はXグレードにしか装着できない。
 オプションの装備類はほとんどがセットになっており、プロパイロットを含む安全装備は42万200円、LEDヘッドランプは7万7千円など。オプション別の装着率は、車の周囲を映し出すアラウンドビューモニターが70%、LEDヘッドランプ69%、コネクトナビ58%、そしてプロパイロットは41%となっている。
主要なオプションを加えていくと登録諸費用込みで300万円を超えてしまうこともあるので、コンパクトカーとしては割高に感じるかもしれない。

驚くほど滑らか


 試乗車は、プロパイロットを装着したXグレード。センターコンソールにあるスタートボタンを押すと、軽やかなBGMに合わせてメーターパネルに明かりがともる。
 シフトレバーは細長い六角形の握りやすいデザインで、手前に引くとドライブモード、奥に押すと後退に入る。パーキングブレーキは電子式。シフトレバーのPボタンを押すと自動的に作動し、発進時はアクセルを踏めば解除される。
 初めに、エコモードを試した。発進は驚くほど滑らかだ。モーター駆動なので当然といえば当然だが、新しいeパワーはエンジンを極力回さない設定なので、電気自動車(EV)そのものの加速だ。アクセルを踏んだ瞬間に2.5リットルガソリンエンジン並みの28.6kgのトルクを発生するので、あっという間に制限速度に達する。
 アクセルを緩めたときの回生ブレーキの利きは先代のノートより自然だ。完全停止にはブレーキを踏む必要があるが、一般の車から乗り換えた場合にはこちらの方が運転しやすい。
 同じモーター駆動でも、ホンダのフィットとはかなり味付けが違う。フィットはエンジンを積極的に回すタイプで、フル加速の際にはギアを切り替えながら走っているようにエンジンの回転が上下する。それに対してノートはエンジンの存在感を消しており、電気自動車のように振る舞う。走行中のノートの車内は、とてもコンパクトカートは思えないほど静かだ。

アクセル一つで加減速


 乗り心地や操縦性もコンパクトカーの枠を大きく超えている。足回りは引き締まっていて、荒れた舗装路ではぷるぷると振られるような動きもあるが、どっしりとした安定感や直進性の良さは、ずっと大きな車を運転しているような気にさせてくれる。このクラスでは、フィットに試乗した際に「コンパクトカーを超えた」という印象を強く受けたが、ノートはさらに安定感が増している。
 eパワードライブの感触を確かめるため、起伏の激しい山道も走ってみた。走行モードは「スポーツ」を選択。モーターのトルクが大きいので、上り坂をまるで平地のように力強く走り、アクセルを踏み込めばぐいぐい加速していく。
 下り坂では、アクセルを戻すだけで十分な減速が得られるので、右足をブレーキに踏み替えずに済む。カーブに進入する手前で右足を少し緩めて前輪に荷重をかけてステアリングを切り込み、出口ではアクセルを踏んで加速しながら出て行く。一連の操作をガソリン車でしようとすれば、アクセルとブレーキの踏み替えはかなり忙しくなるだろう。
 高速道路での走行安定性もいい。車がきちっと真っすぐに走ってくれるので、安心して運転していられる。エンジン音がしないので車内は静かだが、相対的に路面からの騒音や風切り音が気になってしまうかもしれない。試乗車はエコタイプのタイヤが装着されていたが、履き替えの際に走行音が小さいタイプにすればもっと快適になるだろう。
 高速道路や自動車専用道で運転を支援してくれるプロパイロットは、先行車に追い付いたときの速度制御や車線維持機能の動作が自然。分岐点のカーブで自動的に減速するといった、ナビと連携した機能が注目されているが、短時間の試乗だったので試すことはできなかった。
 リアシートはソフトで座り心地がいい。新しいノートは先代に比べて全長が55mm短縮されたが、膝前の余裕は拳が縦一つ半、頭上も一つ半と十分な室内スペースを確保している。
 荷室も深くて奥行きがあり実用的。後部座席の背もたれを前に倒した際には段差ができるが、オプションのラゲッジアンダーボックスを装着すると床面をフラットにすることができる。
 新型ノートは、オプションも含めた価格は高めだが、「クラスを超えた」という表現がぴったりの車。大きな車からの乗り換えで「小さな高級車」を求めている人にはいい選択になりそうだ。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴46年。紀伊民報制作部長