新車試乗記

マツダ MX-30

【スペック】

全長×全幅×全高=4395×1795×1550mm▽ホイールベース=2655mm▽車重=1460kg▽駆動方式=FF▽エンジン=1997cc水冷4気筒DOHC、115kW(156馬力)/6000回転、199Nm(20.3kg)/4000回転▽モーター=5.1kW(6.9馬力)/1800回転、49Nm(5.0kg)/100回転▽燃料消費率=15.6km(WLTCモード)▽トランスミッション=6AT▽車両本体価格=242万円(ベース車)

【試乗車提供】

和歌山マツダ田辺店
(田辺市新庄町2157、0739・22・8535)

[2020年12月10日 UP]

 マツダは、モダンな新型SUV(スポーツ用多目的車)MX-30を発売した。前後のドアが観音開きになる「フリースタイルドア」の採用や、ベース車にオプション群を加えて機能や内装をコーディネートする「ユア・オリジナル・チョイス」を提案している。当初は2リットルのガソリンエンジンに小型のモーターを組み合わせたマイルドハイブリッド(HV)の1機種だが、2021年1月にマツダ初のEV(電気自動車)モデルを追加する。

観音開きのドアを採用


 観音開きドアの採用は、2003~12年に販売していたロータリーエンジン搭載のスポーツカー「RX-8」以来。RX-8が純粋なスポーツカーであったのに対して、MX-30は穏やかな外観をしたSUV。採用の意図はスポーツ性の強調ではなく、特別感を演出するためのようだ。
 後部座席のドアは、フロントのドアを開けてから、センターピラーに埋め込まれたドアハンドルを引くと開く。開口部は意外に広くて、大柄な男性でも乗り降りに不自由することはない。しかし、後部座席にバッグや手荷物を置きたいときにはひと手間かかる。2名乗車の際に後ろの席に座ったら、どうやってドアを開けたらいいのだろうかーなどと考えてしまった。そんな無粋な発想をせずに「2人乗りのクーペ」と割り切るのがこの車の正しい使い方なのだろう。
 マツダにはすでに、同じクラスのSUVとしてCX-30がある。MX-30とは全長(4395mm)、全幅(1795mm)、ホイールベース(2655mm)が一緒で、全高はMX-30(1550mm)が10mmだけ高い。
 パワートレインは、CX-30が標準的な2リットルガソリンエンジン(156馬力)であるのに対して、MX-30はこれに小型のモーター(6.9馬力)を加えたマイルドHVを採用している。マイルドHVのメリットは、発進加速が滑らかで力強さが増すことや、アイドリングストップからの再始動が無音でスムーズなこと。燃費も改善するが、ストロングHVに比べて限定的だ。
 MX-30にはEVモデルの追加が予定されているため、CX-30やマツダ3に搭載されている1.8リットルクリーンディーゼルエンジンは設定されていない。

「内装にコルク」の意味


 外観は、世界的に評価されているデザインコンセプトである「魂動(こどう)」に広がりをもたせており、マツダ3やCX-30とは趣がやや異なる。マツダ3は、光を微妙に変化させながら周囲の景色を映し出す滑らかな曲面で車体側面を仕上げているのに対して、MX-30はシンプルな立体構成。顔つきも、これまでの魂動デザインが鋭く精悍(せいかん)であるのに対して、穏やかな表情をしている。
 内装で目を引くのは、コンソールトレーなどに採用されたコルク。マツダは100年前の1920年に「東洋コルク工業」というコルク製品を製造する会社として産声を上げた。その後機械製造に転じて、自動車メーカーになったので縁の深い素材だ。内装に木目を生かした高級車はあるが、コルクは珍しい。プラスチックや金属にはない温かみを感じさせる部分だ。
 シフトレバーは四角いデザインで近代的。パーキングブレーキは電子式で、ブレーキホールドも備える。エアコンの切り替えや温度調節はタッチパネルで行う。
装備は、ベース車にパッケージ化されたオプションを追加していく「ユア・オリジナル・チョイス」で選択する。
 ベース車とはいえ、後方車両の検知機能も含めた衝突被害軽減ブレーキや全車速に追従するレーダー・クルーズ・コントロール、バックガイドモニターなどを備えている。しかし、ステアリングが滑りやすいウレタンであったり、今では当たり前になったキーレスエントリーが省かれていたりするなど、もう少し装備を加えたいところだ。
 そのためにまず必要なのはベーシックパッケージ(7万7千円)の装着。ステアリングは革巻きになり、キーレスエントリーシステム、交通標識認識システムなどが加わる。このパッケージを選択しないとそのほかのパッケージを追加することができない。
 その次に加えたいのはセーフティーパッケージ(12万1千円)。ブレーキ・サポートに右折時の事故回避アシストが追加され、見通しの悪い交差点で前方横から接近する車両を検知する機能など、先進的な安全装備が追加される。
 このほかにユーティリティーパッケージ(8万8千円)、360度セーフティーパッケージ(8万6880円)、ボーズサウンドシステム(7万7千円)や、内装をアレンジするパッケージがある。

ソフトな乗り心地


 国内で初導入となるマイルドHVの2リットルエンジンによる発進は滑らかで、エンジン音も軽やか。1.8リットルディーゼルに比べるとトルク感はやや薄いが、その代わり軽快に吹き上がる。
 走りだしてすぐに気付くのは室内の静かさ。2リットルクラスの乗用車としてかなり静かで、荒れた路面でも不快な音は室内にあまり入ってこない。
 足回りはソフトな設定だが腰があり、決してふわふわしていない。補修跡がたくさんあるようなでこぼこした路面や、マンホールの上を通過したショックも上手にいなしてくれる。
 それでいて、カーブでのロール(横傾き)は抑えられていて腰高感はない。素直な操縦性には、マツダ独自の車両挙動制御であるGベクタリング・コントロール・プラスが貢献しているのだろう。
 高速道の走行も快適だ。試乗で走る紀勢自動車道は路面がうねったような場所があるが、大きく揺さぶられることもなく、フラット感のある乗り心地を提供してくれた。
 後部座席は座り心地がよく、十分な広さがあるが、窓が小さくて丸いので閉塞(へいそく)感がある。2ドアクーペに後部座席用のドアが付いたパーソナルカーと位置付ければそれも我慢できる。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴45年。紀伊民報制作部長