新車試乗記

トヨタ ヤリスクロス

【スペック】

全長×全幅×全高=4180×1765×1590mm▽ホイールベース=2560mm▽車重=1120km▽駆動方式=FF▽エンジン=1490cc水冷3気筒DOHC、88kW(120馬力)/6600回転、145Nm(14.8kg)/4800~5200回転▽燃料消費率=19.8km(WLTCモード)▽トランスミッション=CVT(自動無段変速機)▽車両本体価格=202万円(写真の試乗車は外装にオプションパーツを装着)

【試乗車提供】

トヨタカローラ和歌山シーズ田辺店
(田辺市上の山1丁目12、0739・24・1190)

[2020年10月8日 UP]

 トヨタ自動車は、排気量1.5リットルの小型SUV(スポーツ用多目的車)「ヤリスクロス」を発売した。1リットルターボエンジンを搭載した「ライズ」と、1.8リットルクラスの「C-HR」の間を埋める新型車。手頃な大きさの車体と使い勝手のいい室内、軽快な走りが持ち味だ。

1.5リットルガソリンとHV


 2月に発売された5ナンバーサイズの5ドアハッチバック「ヤリス」のSUV版。トヨタの新しいコンパクトカー向け車台「GA-Bプラットフォーム」はヤリスと共通だが、車体サイズは一回り大きく、新設計となっている。
 トヨタのSUV充実は目覚ましく、ヤリスクロス以外に1リットルのライズ、1.8リットルクラスのC-HR、2リットルクラスのRAV4、さらに都会派の上級SUVハリアーをラインアップしている。
 ヤリスクロスのパワーユニットは、ヤリスと同じ直列3気筒の1.5リットルガソリンエンジン(最高出力120馬力)と、1.5リットルエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド(システム最高出力116馬力)の2種類。
 この1.5リットルエンジンは燃焼効率を高めたダイナミックフォースエンジンで、高出力と燃費を両立。ガソリン車の前輪駆動(FF)モデルは燃料1リットル当たり18.8~20.2km(WLTCモード)、ハイブリッド(HV)のFFモデルは28.8~30.8kmの低燃費を実現している。
 ガソリン車、HVともに四輪駆動(4WD)を用意しているが機構は異なる。ガソリン車はセンターシャフトを介して物理的に後輪を駆動するダイナミックコントロール4WD、HVは後輪を独立したモーターで駆動するE-Fourを採用している。

実用的な荷室


 試乗車は、ガソリン車の中間グレード「G」のFFモデル。車両本体価格は202万円と手頃だ。販売店によると、商談の段階では燃費のいいHVに関心が集まっているが、価格は同グレードで約37万円の差があり、実用性と価格のバランスで最終的にガソリン車を選ぶユーザーも多いという。
 ハッチバックのヤリスが全長3940mm、全幅1695mm、全高1500mmの5ナンバーサイズであるのに対して、ヤリスクロスは3ナンバーサイズで、それぞれ4180×1765×1590mm。全長はヤリスに比べて240mm長く、幅は70mm広い。
 外観のデザインは凝縮感があり、フロントグリルは台形を二つ重ねた造形。ライズやRAV4とは少しイメージが異なる。試乗車はオプションのモデリスタパーツを外装に装着していたので一段と精悍(せいかん)に見えた。
 全長が240mm伸びた一番のメリットは荷室が大きくなったこと。荷室は奥行きが820mmあり、高さはデッキボードで732mmと850mmの2段階に調節できる。後部座席の背面は4対2対4の3分割で倒せるので、スキー板のような長尺物を積んで4人が乗り込むことができる。
 内装はグレードによって異なり、試乗車は黒一色。ダッシュボードの手の届く場所にはソフトパッドを使うなど、ヤリスよりも丁寧に仕上げられている。
 運転席は着座位置が高く、窓の面積が広いので、前後左右の見切りがいい。またボンネット左右の盛り上がりが見えるので、車幅感覚もつかみやすい。運転のしやすさがSUVの長所だ。

力強いエンジン


 3気筒の1.5リットルエンジンは低回転のトルクが大きく、発進用ギアを備えたCVT(無段自動変速機)との組み合わせで力強く走りだす。FFモデルは車重が1120kgと軽いので、必要十分なパワー。上り坂に差し掛かるとエンジンの回転はそれなりに高まるが、力不足はあまり感じない。室内に入ってくるエンジン音は大きいが音質は軽快だ。
 ドライブモードは3種類あり、手元のスイッチでノーマルから「パワー」と「エコ」に切り替えができる。パワーモードはエンジンを高回転まで回す設定で、アクセルをじわりと踏んだ発進でも4千回転付近まで回り、定速走行でも高めの回転を保つ。力強さは増すが、常時パワーモードにしておくのは、この車の性格には似合わない。
 逆にエコモードはエンジン回転を低く保つので加速はゆったりするが、市街地で交通の流れに乗るには十分なパワーがある。時速60kmで走行している時のエンジン回転は、ノーマルモードは約2200回転だが、エコモードに切り替えると約1200回転まで下がる。低回転で力があるエンジンなのでストレスなく走ることができる。
 このエンジンはアイドリングストップ機構が付いていないが、車体の遮音がしっかりしているため、信号などで停止しているときでも音は静かだった。
 アイドリングストップは、再始動に余分なガソリンが必要になることから短時間の停止ではメリットが少ないことや、対応のバッテリーが高価になるという課題が指摘されている。特に消耗品であるバッテリーは3~5年で買い替えが必要になり、ユーザーの費用負担は意外に大きい。

高速走行も快適


 ガソリン車は車重が軽いので、操縦性は軽快だ。背が高いSUVにもかかわらず重心が低く、コーナリングではステアリングを切ったなりにきれいに回り込み、腰高感はなかった。コーナーの途中でうねりを乗り越えても頑丈な車体がしっかり受け止めて、進路を乱されることがなかった。マンホールや道路の補修跡などを通過した際のショックも角が丸まっていて、乗り心地は良かった。
 高速道路での直進安定性も優れている。ステアリングの据わりがよく、車が真っすぐに走ってくれるという安心感がある。先行車に追従して走行するレーダークルーズコントロールや車線の中央を維持するレーンキープの動作も自然だった。
 クルーズコントロールは全車速に対応。電子パーキングブレーキとブレーキホールド機構を備えているので、高速道路での渋滞やのろのろ運転でも、先行車との車間を保ちながら完全停止までカバーしてくれる。
 ヤリスは走りが軽快な半面、快適性の面では車内の騒音が大きめだったが、ヤリスクロスは遮音性能が一ランク上だ。高速走行のロードノイズも少なめで快適だった。
 安全装備の充実は目覚ましい。交差点での右折時に直進してくる対向車と衝突の危険がある場合に自動ブレーキをかけたり、右左折時に対向方向から横断歩道を渡っている歩行者を検知してブレーキを作動させたりする機能がある。
 また、車線変更の際に斜め後方の死角に入った車両を検知するブラインドスポットモニターや、駐車場からバックで出庫する際に左右後方から接近する車両を検知して警報を鳴らし、衝突の危険がある場合には自動ブレーキをかけるリヤクロストラフィックオートブレーキがメーカーオプションで設定されている。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴45年。紀伊民報制作部長