10年ぶりの新型車
キックスは、小型車「ノート」やミニバン「セレナ」で実績のある電動駆動eパワーを搭載した。
車種構成はシンプルで、内装が黒一色の「X」(275万9900円)と、オレンジと黒の2トーンカラーを採用した「Xツートーンインテリアエディション」(286万9900円)の2種類。ツートーンインテリアエディションは、オレンジタンと黒でコーディネート。シートは合成皮革で肌触りが良く、ヒーターも内蔵している。駆動方式は前輪駆動(FF)のみで、四輪駆動(4WD)は設定されていない。
車体サイズは全長4290mm、全幅1760mm、全高1610mmと、最新のSUVの中では小柄だが、日産の統一デザインであるダブルVモーショングリルにより存在感は強い。最小回転半径が5.1mと小さいので、街中で扱いやすい。
全長が短いのに室内は広い。また荷室は奥行きがたっぷりあり、Mサイズのスーツケース(675×452×250mm)を4つ積むことができる。
キックスはタイで生産し日本で販売する逆輸入車。同じくタイ製の小型車マーチは内装の仕上がりがシンプル過ぎたが、キックスの内装はソフトパッドを多用するなど高級感があり、国内生産車に劣らない仕上がりになっている。
力強くスムーズ
HVには大きく分けて3つの方式がある。トヨタが採用しているストロングHVは、燃料を消費する発進加速を強力なモーターが受け持ち、ある程度速度が上がるとエンジンが始動。走行中はエンジンとモーターが協業して車輪を駆動する。
スズキなどが採用しているマイルドHVは、3馬力程度の出力の小さいモーターが発進や加速を補助し、アイドリングストップからの再始動もスムーズ。省エネ効果は小さいが、コストが安いのが特徴だ。
これに対して、エンジンで発電しモーターで駆動するHVはシリーズ方式と呼ばれ、日産やホンダが採用している。排気量の小さなエンジンで大きな出力・トルクを生み出すことができ、しかも燃費に優れるのが特徴。
キックスは、最高出力82馬力の1.2リットル3気筒エンジンで発電した電気をリチウムイオン電池に蓄え、最高出力129馬力、最大トルク26.5kgのモーターで車輪を駆動する。発電機付きの電気自動車と考えればいい。
シフトレバーは、プリウスのようなスティック型式。右側に倒し、手前に引くとドライブモードに入る。モードの切り替えはDモード、Sモード、エコモードの3種類。Dモードは一般的なオートマチックトランスミッションと同じ。アクセルを踏めば加速し、減速・停止にはブレーキペダルを使う。
一方で、Sモードとエコモードは、アクセルを戻すことでブレーキを踏んだのと同等の強い減速力が発生する。加速から減速、さらに完全停止までアクセルペダルの操作だけでこなすことができる。
このワンペダル走行は、初めての運転では違和感があるがすぐに慣れ、とても便利だ。
モーターでの発進は、アクセルの一踏みから力強い駆動が加わり、大排気量のガソリンエンジン車に乗っているような感覚。振動は皆無で騒音もなく、スムーズに加速する。同じeパワーを搭載するノートは、時速60kmを超えると発電用のエンジンが始動してにぎやかになるが、キックスは80kmを超えても発電なしで走る。さらにエンジンは始動しても静かで、存在を意識することはほとんどない。
同じシリーズハイブリッドのホンダ・フィットは、アクセル開度に応じて発電用エンジンの回転が上がるので常にエンジンを意識し、「電気自動車に乗っている」という感覚は薄い。
アップダウンとカーブが続く峠道でのワンペダルドライブは快適そのもの。カーブの入り口でアクセルを戻せば、ブレーキに足を踏み換えなくても進入速度を思い通りに調節でき、下り坂のカーブでは微妙な速度調節も容易。アクセルペダルの踏み加減で車体の重心移動もできるので、リズミカルにカーブを通過することができる。これはeパワーならではの楽しさだ。
高速走行も楽々
高速道路の走行では、運転支援のプロパイロットが頼りになる。ステアリング右側の青いボタンを押し、巡航したい速度でセットボタンを押せば設定終了。あとはアクセル、ブレーキ、ステアリングを車が補助してくれる。高速道路のカーブでも車線中央を走りながら先行車との車間距離を一定に保ってくれるので安心だ。
試乗車は、メーカーオプションのアラウンドビューモニターを装備。ぐるりと周囲が見渡せるほか、狭い道で画面を切り替えて、左前輪の周囲を拡大表示するといったことも可能だ。セットオプションのインテリジェントルームミラーは、後方カメラからの画像を映し出すので視界が広い。以前のものに比べると、映像が自然で見やすくなった。
また、万一の事故やあおり運転に遭った場合にオペレーターと連絡が取れるSOSコールが標準装備となっている。
キックスのライバルは、トヨタのC-HRやヤリスクロス、ホンダのベゼルなど。タイから輸入し、国内で点検・整備するため納期は長めで、今から発注すると納車は来年1月ごろという。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴45年。紀伊民報制作部長