新車試乗記

ホンダ フィット・クロスター

【スペック】

全長×全幅×全高=4090×1725×1570mm(ルーフレール含む)▽ホイールベース=2530mm▽車重=1100kg▽駆動方式=FF▽エンジン=1317㏄水冷直列4気筒DOHC、72kW(98馬力)/6000回転、118Nm(12.0kg)/5000回転▽燃料消費率=19.4km(WLTCモード)▽トランスミッション=CVT(自動無段変速機)▽車両本体価格=193万8200円

【試乗車提供】

ホンダカーズ田辺・稲成店
(田辺市稲成町46、0739・24・4500)

[2020年6月11日 UP]

 ホンダの新型フィットには生活スタイルに合わせた五つのバリエーションがあり、クロスターは専用デザインの車体が与えられているアウトドア向けのモデル。ハイブリッド(HV)と1.3リットルのガソリン車があり、今回はガソリン車に試乗した。

外観は専用デザイン


 新型フィットの発売に当たってホンダは、これまでの装備別グレードを廃して、生活スタイルに合わせた提案をしている。
 装備がシンプルな「ベーシック」を基本に、内装の質感を高めたのが「ホーム」。フィットネスクラブに通うような健康志向の人を対象にした「ネス」は、シートなどに撥水(はっすい)性の高い素材を使用。豪華装備の「リュクス」は、コンパクトカーでありながら本革シートを装備しており、大きな車から小型車に乗り換えるダウンサイザーを意識したグレードだ。
 クロスターは、アウトドアでの利用を想定したグレード。専用のフロントグリルやバンパー、車体横のプロテクターなどを装備し、他の4グレードが全幅1700mm未満の5ナンバーサイズに収まっているのに対して、1725mmの3ナンバーサイズになっている。全長も95mm長い。未舗装路を走るために重要な最低地上高は他のグレードより25mm高い160mmを確保している。
 標準のフィットはフロントグリルのない優しい顔つきをしているのに対して、クロスターはグリルを持たせることで力強さを出している。

死角が少ない運転席


 試乗車の1.3リットルガソリンエンジンは最高出力98馬力、最大トルク12.0kgを発生する。車両本体価格は193万8200円(前輪駆動車)。これに対して、HVモデルは、1.5リットルのエンジン(98馬力)で発電しモーター(109馬力、25.8kg)で走行するe:HEVを採用。車両本体価格は228万8千円で、ガソリン車との価格差は約35万円となる。
 燃費を比較してみると、ガソリン車が燃料1リットル当たり19.4km(WLTCモード)であるのに対して、HVは27.2kmと7.8km上回る。ガソリン車の燃費はHVに比べると見劣りするが、それでも軽自動車と同等なので十分に経済的だ。
 フィットはとにかく視界が広い。フロントガラスを支えるピラー(柱)を細くすることで、従来モデルでは左右69度だった水平の視野角を90度まで広げ、さらにインパネの上部を平らにすることですっきりした見栄えにしている。運転席から見る左右の死角が少ないので、右左折時の安全確認もしやすい。クロスターは標準モデルに比べて目線の位置がやや高いので、前方の視界はさらに良好だ。
 車体が少し大きいクロスターだが、室内の広さは標準モデルと変わらない。フィットは室内が合理的にレイアウトされており、コンパクトな車体にもかかわらず運転席、後部座席、荷室ともに小型車とは思えない広さを確保している。大人4人が乗っても狭いと感じることはなく、開放感も高い。
 さらに後部座席のシートは座面が厚くて柔らかく、座り心地がいい。しかも、運転席より高くなっているので、外が見やすくて圧迫感がない。この座面はワンタッチで跳ね上げることが可能で、鉢植えの植物など、荷室には載らない背の高い荷物を積むことができる。

力不足を感じる場面も


 ガソリン車とHVで、動力性能や快適性の差はどの程度あるのだろうか。
 1.3リットルの4気筒エンジンは滑らかに回り、音も軽快だ。普段使いには必要十分な動力性能がある。一方で、山間部や高速道路を走る機会が多い人は力不足を感じる場面があるだろう。
 例えば、バイパスの本線に合流するため、上り坂の進入路で一気に速度を上げたい場面。HVのモーターは2.5リットル自然吸気エンジン並みの25.8kgの最大トルクがあるので余裕を持って加速するが、ガソリン車はエンジンの回転が高まりながらもなかなかスピードが乗ってこない。一般道でも上り坂で力不足を感じることがあった。
 乗り心地の良さはガソリン車もHVも変わらない。特にクロスターは185/60/R16という大径で厚みのあるタイヤを履いているので、路面からのショックを一段と和らげてくれる。
 高速走行はフィットの得意種目だ。渋滞追従機能を備えたアダプティブ・クルーズ・コントロールと車線維持支援システム(LKAS)を使えば、リラックスして高速道路を走ることができる。緩やかなカーブが多い紀勢自動車道でも、車が自動でステアリングを操作して道なりに走ってくれた。LKASはメーカーによってはアシストが強めで不自然に感じることもあるが、フィットは介入が自然だ。また、LKASをキャンセルしても直進安定性はいい。
 フィットは室内が広くて乗り心地が良く、さらに内装の仕上げも上質。「大きな車から運転が楽なコンパクトカーに乗り換えたいが、車の質は落としたくない」というダウンサイザーの要望に十分に応えてくれる。
 走りの滑らかさや力強さではHVモデルに軍配が上がるが、ガソリン車も、上質感や車両価格を含めた経済性の面では満足できる仕上がりになっている。
 フィットの使い勝手は魅力だがデザインが地味と感じている人は、個性的なクロスターを選択肢に入れてもいいだろう。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴45年。紀伊民報制作部長