新車試乗記

トヨタ ヤリス

【スペック】

ヤリスハイブリッドG( [ ]内はガソリンエンジンのZ)
全長×全幅×全高=3940×1695×1500mm▽ホイールベース=2550mm▽車重=1060kg[1020kg]▽駆動方式=前輪駆動▽エンジン=1490㏄直列3気筒DOHC、67kW(91馬力)/5500回転、122Nm(12.2kg)/3800~4800回転[88kW(120馬力)/6600回転、145Nm(14.8kg)4800~5200回転]▽モーター=59kW(80馬力)、141Nm(14.4kg)▽トランスミッション=電子式無段変速機[CVT]▽燃料消費率=35.8km[21.6km](WLTCモード)▽車両本体価格=213万円[192万6千円]

【試乗車提供】

ネッツトヨタ和歌山・田辺店
(田辺市新庄町1895、0739・22・4979)

[2020年4月9日 UP]

 トヨタは小型車ヴィッツをフルモデルチェンジし、「ヤリス」として発売した。1.5リットル3気筒ガソリンエンジンやハイブリッドシステム(HV)を新開発。スポーティーなコンパクトカーに仕上げた。

スポーティーに変身


 ヤリスはヴィッツの海外での名称。フルモデルチェンジに当たって名称を統一し、イメージを一新した。
外観で目を引くのはシャープな印象のヘッドランプと張りのあるリアフェンダー。全長3940mm、全幅1695mm、全高1500mmのコンパクトな車体に走りのイメージを凝縮した。
 車の土台になるプラットフォームは、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)に基づいて開発したコンパクトカー向けのGA-Bプラットフォームを採用。軽量、高剛性、低重心の車体を実現した。
 新開発の1.5リットルガソリンエンジンは、低燃費と高出力を両立させたダイナミックフォースエンジン。最高出力120馬力、最大トルク14.8kgを発生する。低い回転から力を発揮しながら、高回転まで気持ち良く回るエンジンで、さらにガソリン1リットル当たり21.6km(WLTCモード)という軽自動車並みの燃費性能を得ている。
 組み合わせるトランスミッションは、発進用のギアを持ったダイレクトシフトCVT(自動無段変速機)。スタート時のもたつきがなく、エンジン回転と速度の上昇が一致する。
 HVシステムも一新。ガソリン1リットル当たりの燃費は35.8kmと世界最高水準になり、実際の走行でも30kmを超える燃費を記録することができる。
 このほかにガソリンの1.0リットルエンジン(69馬力)も用意されているが、実質的には1.5リットルとHVが販売の主力になる。
 安全運転を支援するトヨタセーフティーセンスも機能を充実した。交差点右折時の対向直進車や右左折時に対向方向から来る横断者をミリ波レーダーと単眼カメラで検出し、衝突の危険がある場合にはブレーキを作動させる。

軽快なガソリン車


 最初に試乗したのは1.5リットルガソリンの最上級グレードであるZ。室内は前席を優先しており、後部座席は狭め。インパネなどの内装はプラスチックを多用しており高級感はない。
同時期に発売されたホンダの新型フィットが内装にソフトパッドや布を使い上質感を出しているのに比べると、コンパクトカーらしい割り切りと言えそうだ。
 デジタル式のスピードメーターとタコメーター(回転計)は小さく、バーグラフ式の回転計は見にくい。試乗車は、フロントガラスに車速やナビの情報を映し出すカラーヘッドアップディスプレー(オプション)を装備しており、こちらは見やすかった。
 トヨタ初の1.5リットル3気筒エンジンは、低回転から力がある。発進時や高回転時に独特の振動や音を感じるが、常用の回転域では静かでスムーズだ。
 走りだしは、発進用のギアを備えたCVTによりエンジン回転と車速の上昇が一致し、力強くスムーズに加速する。車体が1020kgと軽いことも利点だ。
 操縦性や乗り心地の良さは、これまでのヴィッツを大きく上回る。足回りはダンピングが利いた粘りのある動きをする。スポーティーだが、がちがちに堅くはなく、凹凸がある場所でも不快な振動は伝わってこない。
 ステアリングは中立付近の据わりが良く、直進性に優れる。コーナリングの回り込みも自然でコンパクトカーらしい軽快感がある。カーブが予想よりも急だったのでステアリングを切り足した、といった場面でも車体をすっと内側に向けてくれる。
 高速道路での安定性もいい。車線からはずれることを防ぐレーントレーシングアシストと、先行車に追従するレーダークルーズコントロールを標準装備しており、ステアリングに手を添えているだけで安心して走っていられる。ただ、この追従走行の機能は時速30kmを下回ると解除されるので、渋滞時の発進・停止の繰り返しはサポートしてくれない。

HVは驚異的な燃費


 HVの試乗車は中間グレードのG。スタートはガソリン車よりもさらに力強くスムーズだ。システムの総合出力は116馬力で、ガソリンエンジンの120馬力より低いが、低回転から瞬時にトルクが立ち上がるモーターが車体を前に押し出す。
 追い越しを掛ける際の加速もHVの方が格段に鋭く、上り坂でも力強い。ただ、プリウスなどに比べてエンジンが始動した時の音は大きめで、3気筒エンジンの存在を意識する。
 驚異的なのは燃費性能。試乗車は不特定多数の人が加減速を試したりするので通常の使用より燃費がかなり悪くなるが、乗車した際にメーターに表示されていた平均燃費はガソリン1リットル当たり28.9km。それが走行するにつれてさらに上昇し、約1時間の試乗を終えて返却するときには31.4kmまで伸びていた。
 燃費計の動きを見ていると、高速道路を一定の速度で巡航しているときには30km手前で横ばいだったが、一般道に下りてからぐんぐん伸びた。ガソリン車にはないHVならではの特長。市街地での利用が多いドライバーには大きなメリットになる。
 HVとガソリン車の価格差は装備が同じなら30万円以上あるので、燃料代で元を取るのは難しい。どちらを選ぶかは、動力性能を基準にするのがいいだろう。

ライバルはフィット?


 ヤリスのライバルに挙げられているのは、同時期にフルモデルチェンジしたフィットだ。両車は同じコンパクトカーでありながら個性が違い、軽快でスポーティーなヤリス、上質で落ち着きのあるフィット、という形になる。
 フィットHVは、高速の巡航以外は電気モーターで走り、上質感や滑らかさが持ち味。内装も、大きな車から小さな車に乗り換えるダウンサイザーが納得するような仕上がりになっている。
 それに対してヤリスは軽快に走りたい、格好良くておしゃれな車に乗りたいという人に向いている。内装はプラスチックを多用するなど、これまでのコンパクトカーの延長線上の作り込みになっている。
 運転の楽しさはヤリスに軍配が上がる。HV、ガソリン車ともハンドリングが軽快で、アクセルを踏んだ際の反応も鋭い。フィットは一回り大きな車に乗っているようなどっしりとした安定感があり、操縦性、加速性能とも穏やかな味付けだ。
 乗り心地や高速道路での直進安定性は両車とも、これまでのコンパクトカーの水準を大きく超えている。ヤリスは引き締まった粘りのある乗り味、フィットはソフトで滑らかな足回りが特長。いずれも、荒れた路面から伝わる振動もよく抑えられている。室内の静粛性については両車ともこれまでのコンパクトカーより優れているが、乗り比べるとフィットの方が静かだ。
 装備で大きく違うのは、クルーズコントロールの機能。フィットは全車速対応で、電子制御パーキングブレーキが自動で停止状態を保持する。ヤリスは時速30kmを下回るとキャンセルされてしまう。
 使い勝手の面では、フィットは後部座席が広くてシートの座り心地がいい。ヤリスの後部座席はフィットよりも狭く、ドアが小さいのでやや乗り降りしにくい。ヤリスはパーソナルカー、フィットはファミリーカーとしての利用が似合っている。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴45年。紀伊民報制作部長