新車試乗記

ホンダ フィット e:HEVホーム

【スペック】

(e:HEVホーム)
全長×全幅×全高=3995×1695×1515mm▽ホイールベース=2530mm▽車重=1180kg▽駆動方式=FF▽エンジン=1496㏄水冷直列4気筒DOHC、72kW(98馬力)/5600~6400回転、127Nm(13.0kg)/4500~5000回転▽モーター=80kW(109馬力)/3500~8000回転、253Nm(25.8kg)/0~3000回転▽燃料消費率=28.8km(WLTCモード)▽トランスミッション=電気式無段変速機▽車両本体価格=206万8000円

【試乗車提供】

ホンダカーズ田辺・稲成店
(田辺市稲成町46、0739・24・4500)

[2020年3月12日 UP]

 フルモデルチェンジしたホンダの新型フィットは「心地よさ」が開発テーマ。ハイブリッド(HV)モデルは、エンジンが発電を受け持ちモーターで走行するe:HEVを採用。加速や乗り心地、そしてデザインまで、全てが滑らかなコンパクトカーに仕上がっている。

HVと1.3リットルガソリン


 フロントグリルが大きい肉食獣的な顔つきの車が増える中で、新型フィットはあえて、子犬のような優しいデザインを採用した。全体の造形は先代フィットの台形を引き継いでいるが、グリルのないフロント回りや滑らかな面で構成されるサイドとリアのデザインは、鋭いキャラクターラインが入っていた先代から大きく方向転換した。
 パワーユニットは最高出力98馬力の1.3リットルガソリンエンジンと、1.5リットルのエンジン(98馬力)で発電しモーター(109馬力、25.8kg)で走行するe:HEVの2種類。
 e:HEVは、インサイトやオデッセイなど上級車に搭載している機構を小型化した。このシステムは、バッテリーに十分な電力を蓄えているときにはエンジンを停止して駆動用モーターのみで走行。大きな負荷が掛かったりバッテリーの残量が少なかったりしたときにはエンジンで発電用のモーターを回し、その電力を駆動用モーターに供給する。
 高速での巡航は、モーターよりもエンジンで走った方が効率がいいため、エンジンとタイヤ駆動軸を直結して走る。ガソリン1リットル当たりの燃費は、WLTCモードで28.8km(e:HEVホーム)。シーン別では市街地29.6km、郊外31.8km、高速道路27.0kmとなっている。
 車種のグレードは、装備による区分けではなく、生活スタイルに合わせた提案をしている。基本モデルである「ベーシック」、内装の質感を高めた「ホーム」、シートなどに撥水(はっすい)性の高い素材を使い、健康的なフィットネスライフをイメージした「ネス」、アウトドアでの利用を想定したタフな「クロスター」、本革シートの採用など上質なコーディネートの「リュクス」の五つのバリエーションがある。

静かで落ち着いた乗り心地


 試乗車は、売れ筋となる「ホーム」のHVモデル。モーターで走るので、走りだしは静かで滑らかだ。加速の仕方や速度域、バッテリーの残量などの条件によってエンジンは回ったり停止したりするが、いつ回っているのかは液晶メーターで確認しないと分からないほど静かだ。
 アクセルを強く踏んだときには、発電しているエンジンの回転が加速に合わせて上昇するように設定されており、ガソリン車から乗り換えても違和感がほとんどない。一方で、日産のノートeパワーのワンペダル・ドライブのような電気自動車ならではの特別感はない。
 モーターの最大トルクは2.5リットル自然吸気エンジン並みの25.8kgあるが、加速はゆったりしており、意識的にアクセルを大きく踏み込んでも強烈な加速はしなかった。パワーの出方も「心地よさ」を優先しているのだろう。トルクに乗ってぐいぐい加速することを期待すると裏切られる。
 高速道路での乗り心地を確かめるため、紀勢自動車道に乗り入れてみた。進入路のカーブでは、素直なハンドリングが印象的だ。制限速度の70kmで巡航していても相変わらず室内は静かで、コンパクトカーとは思えないほど落ち着いた乗り心地を提供してくれる。直進安定性に優れ、ステアリングの座りが良く、手を添えているだけで真っすぐに走ってくれる。全車に車線維持支援システムが搭載されているが、その必要を感じさせないほど安定した走りだった。
 一般道、高速道路を問わず足回りはスムーズに動き、荒れた路面でも不快なざらつきが抑えられている。室内の静かさや快適性、どっしりとした安定感は、車体が4㍍を切るコンパクトカーとは思えない出来栄えだった。

広々とした視界


 新型フィットは視界がいい。フロントガラスを支えている一番前の柱(Aピラー)を細くし、インパネも低くて平らなデザインを採用しているので前方の視界が大きく開け、交差点やカーブを曲がるときでも死角が少ない。フロントガラスを大きく寝かせたスタイルなのに、ガラスが立ったミニバンのような開放感がある。
 ホンダ独自のセンタータンクレイアウトにより室内は広く、身長173cmのリポーターに運転席を合わせて後部座席に座ると、膝の前には握り拳が縦二つ分入る空間ができる。定員乗車時でもたっぷりした荷室容量があり、低い位置からテールゲートが開くので重い荷物の積み降ろしもしやすい。
 シートも改良された。上級セダンを見据えて開発したという新しい構造のシートはパッドの厚みが従来より30mm以上厚く、着座感がソフト。運転席と助手席は側面の支えがしっかりしているので、急カーブで体がぐらつくことがない。後部座席の座面も厚みがたっぷりあり、座り心地が良かった。後部座席は座面を跳ね上げることが可能で、観葉植物など背の高い荷物を積むことができる。
 安全装備は、広角単眼カメラで性能を向上した安全運転支援システム「ホンダセンシング」を全車に標準装備。衝突軽減ブレーキや誤発進抑制機能のほか、渋滞にも対応した先行車追従機能や高速道路での車線維持機能を備える。
 歴代のフィットは室内が広くて燃費が良く、運転しやすいコンパクトカーとして人気があったが、品質や上質感という部分はライバルと同等だった。
 新型フィットは、性能や使いやすさの向上に加えて、運転に関わる全てをスムーズ、滑らかにし、室内も上質に仕上げた。コンパクトカーの水準を大きく引き上げる一台になりそうだ。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴45年。紀伊民報制作部長