軽自動車が上位を独占
タントは全高が1700mmを超えるスーパーハイト・ワゴンの先駆けとして2003年に登場。助手席側のドアが大きく開くミラクルオープンドアは2代目から採用している。
スーパーハイト・ワゴンは、室内が広くて使い勝手がいいことから子育てファミリーをはじめ幅広い世代に支持され、先進安全機能も高級車と並ぶところまで進化している。
かつて軽自動車はセカンドカーとして、買い物や子どもの送迎など近距離を走る用途が中心というイメージだったが、今や長距離ドライブもこなせるファーストカーとしての性能を十分に備えている。
2019年上半期の国内の新車販売を見ると1位はホンダのNボックス、2位にスズキのスペーシア、3位にタントと、各社のスーパーハイト・ワゴンが上位を独占。4位は日産の軽乗用車デイズで、登録車(普通車、小型車)は5位にようやくトヨタのプリウスが顔を出す。タントのフルモデルチェンジで順位がどのように変動するかも注目される。
ドアには便利な新機能
タントのモデルチェンジのポイントは三つ。一つは使い勝手の向上、次に安全性の向上、そして車の基本性能の向上だ。まず、使い勝手からチェックしよう。
タントの売り物は、助手席側の前後ドアが大きく開くミラクルオープンドア。そこに新しい機能を盛り込んだ。軽自動車初というタッチ&ゴーロック機能は、パワースライドドアが閉まる前にドアロックを事前予約できる機能。スライドドアが閉まるまでの時間は、待っていると長く感じるもの。そんな不満を解消してくれる機能だ。
もう一つのウエルカムオープン機能は、車を降りるときに予約しておけば、戻ったときにパワースライドドアが自動で開くという機能。買い物で両手に荷物を持っていても、車に近付くだけでドアが開くので便利だ。また助手席のドアには、半ドアになったときに自動で全閉するイージークローザー機能を採用した。
さらに、シートアレンジにも工夫を凝らした。運転席は最大540mmもスライドさせることが可能なので、一番後ろにセットすると運転席から後部座席への移動や助手席側からの乗り降りが楽にできる。この機能は、シフトポジションがパーキングに入っているときだけ利用できる。
安全性の面では、予防安全機能「スマートアシスト」が進化した。衝突回避支援ブレーキ機能、車線逸脱警報機能などに加えて、車が車線をはみ出しそうになるとステアリングを戻すように操作する車線逸脱抑制制御機能や、前方・後方のブレーキ制御付き誤発進抑制機能、ハイビームで走行中に対向車を検知すると対向車の部分だけライトを遮光するアダプティブドライビングビームなど、上級車と並ぶ安全機能を搭載した。
さらにターボエンジンを積んだ2グレードにはオプションで全車速追従機能付きアダプティブクルーズコントロールを設定。高速走行から停止状態まで、先行車との車間を維持しながら走行できる。車線の中央を維持するようステアリングを操作するレーンキープコントロールもセットオプションになっている。
静粛性、操縦性が向上
試乗車は精悍(せいかん)な顔つきをしたカスタムRS。最高出力64馬力のターボエンジンを搭載する。
今回の試乗では、軽自動車初の駐車支援システム「スマートパノラマパーキングアシスト」(メーカーオプション)を体験した。
車の左右に配置したカメラが駐車枠の白線を検知し、ステアリングを操作してくれる仕組み。運転者の役割は、音声とナビ画面のガイドに従ってシフトレバーを切り替えたり、アクセルとブレーキを操作したりすること。実際にやってみると、車が勝手に何度か切り返しながら、駐車枠の真ん中にきちっと収まった。手を離しているのにステアリングがくるくる回る様子は、将来の自動運転自動車を見るようだ。
バックが苦手という初心者や、高齢ドライバーにはうれしい機能だ。しかしタントは、車体が小さい上に前後左右の見切りがいいので、運転に慣れたドライバーなら自分で操作した方が早い。
スーパーハイトワゴンの先駆けだけあって室内はとても広い。アクセルを踏んでスタートすると、走りだしは静かでスムーズ。ターボエンジンなのでスタートの力強さも十分だ。先代に比べて車重を約40kg軽くした効果も出ている。上り坂も、エンジンが2千回転も回っていればぐいぐい上ってくれる。それでも900kgを超える車重があるので、急な加速をしようと思うと、もう一段のパワーが欲しくなる。
乗り心地と操縦性も大きく進化した。新設計の車台は、骨格が強くなったことがはっきり分かる。足回りがしっかり動き、路面の荒れた場所でもソフトな乗り心地を提供してくれる。カーブでは車高が高いにもかかわらず、ぐらりと車体が大きく傾いたり、カーブの外側に引っ張られたりすることが少ない。
高速道路での走行音も静かで直進安定性もいい。車線の中央を維持するレーンキープコントロールと先行車追従機能をオンにしておけばリラックスして走ることができる。
軽自動車のレベルが年々向上し、室内の広さではすでに小型車を超え、乗り心地や室内の静粛性、安全性能、走行性能の面でも小型車をしのぐモデルが登場している。タントもセカンドカーではなく、ファーストカーとして利用できる一台だ。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴44年。紀伊民報制作部長