新車試乗記

マツダ MAZDA3 ファストバックXD

【スペック】

全長×全幅×全高=4460×1795×1440mm▽ホイールベース=2725mm▽車重=1410kg▽駆動方式=FF▽エンジン=1756cc水冷4気筒DOHC直噴ターボディーゼル、85kW(116馬力)/4000回転、270Nm(27.5kg)/1600~2600回転▽燃料消費率=19.8km(WLTCモード)▽トランスミッション=6AT▽車両本体価格=298万9200円

【試乗車提供】

和歌山マツダ田辺店
(田辺市新庄町2157、0739・22・8535)

[2019年6月13日 UP]

 マツダは、主力の小型乗用車「アクセラ」をフルモデルチェンジし、MAZDA3(マツダ・スリー)として発売した。滑らかな面で構成した斬新なデザインを採用。操縦性、静粛性が大きく向上し、1クラス上の快適性を得ている。

滑らかな面で構成


 まず目を引くのはデザインだ。車体の側面は滑らかでシンプルな面で構成され、光の当たり具合で映り込みが微妙に変化する。きらきらしたメッキのパーツも少ない。車高がアクセラより低くなったこともあり、引き締まって見える。
 後方から見た姿は、写真ではやや重心が高いように感じるが、実車は丸いテールランプや緩やかな弧を描くバックドアのつながりが魅力的だ。
 ボディーは5ドアのファストバック(ハッチバック)と4ドアセダンの2タイプ。セダンはハッチバックより全長が200mm長く、伸びやかなデザインが特徴だ。
 エンジンはガソリンの1.5リットル(最高出力111馬力)と2リットル(156馬力)、それに1.8リットルのディーゼル(116馬力)が用意されている。このうちガソリンの1.5リットルとディーゼルが5月下旬に発売された。ガソリンの2リットルは7月下旬に発売予定で予約を受け付けている。
 さらに10月には「スカイアクティブX」と呼ばれる2リットルの新型エンジンがデビューする。実用化が不可能とされていたガソリンを圧縮着火するエンジンで、ディーゼルエンジン並みの大きなトルク、優れた燃費と、高回転まで回るガソリンエンジンの良さを併せ持ったエンジンという。
 代わりにアクセラの最上級車種に設定されていた2.2リットルディーゼルエンジン(最高出力175馬力、最大トルク42.8kg)は廃止された。

力強いディーゼル


 試乗車は、1.8リットルディーゼルエンジンを搭載したハッチバックの最上級グレード「バーガンディセレクション」。シートに本革を採用し、運転席はシート位置のメモリー機能を備えたパワーシートになっている。
 インテリアは直線を基調に、高級感のある仕上がり。運転席に座ると、アクセラよりもさらに囲まれた感じがする。前方や横方向の視界はいいが、後部ピラー(柱)の幅が広いため、斜め後ろは見にくい。後部座席はやや狭く、身長173cmのリポーターが座って、膝前に握り拳一つ分、頭上も拳一つ分の余裕しかない。
 走りだすとすぐに、アクセラに比べて静かになり、ステアリングの据わりが良くなったことが分かる。舗装の荒れた場所に差し掛かっても室内に入り込んでくる騒音は小さい。路面のざらつきも上手に吸収しており、道路に薄いゴムシートを一枚かぶせたような感触だ。
 今回のモデルチェンジで、リアサスペンションが左右独立のマルチリンク方式から構造が単純なトーションビーム方式に変更されたことを「格下げ」と指摘する声もあるが心配ない。走行性能や乗り心地は大きく向上している。
 橋の継ぎ目を乗り越えたりマンホールの上を通過したりした際の衝撃は角が取れていて、明らかにアクセラよりも小さい。路面が大きくうねった場所でもあおられにくく、姿勢の収まりも早い。サスペンションの形式だけで性能を論じるのではなく、自身で運転して判断してほしい。
 さらに驚かされるのは、コーナリング性能の高さだ。マツダは車両の姿勢制御として、カーブに進入する際にステアリング操作とエンジンの駆動トルクを連動して制御するGベクタリングコントロール(GVC)を採用しているが、マツダ3には新たに、ブレーキによる姿勢安定化制御が追加された。
 その効果は大きく、カーブの外側に引っ張られる遠心力とは無縁のように、スムーズにコーナリングをこなす。ステアリングを切り込むだけでするすると回っていく不思議な感覚は大きなカーブでも、山道の急カーブでも変わらない。
 スズキのスイフトスポーツやマツダロードスターなどコーナリング性能に優れた車は数多くあるが、それらは車輪が路面をつかみながらステアリングの切り角に応じて車体がぐいぐい内側に切れ込んでいくような反応を示す。同じような速度でカーブに進入してもマツダ3は緊張感なく回っていくので、スポーツ性を期待していると裏切られるかもしれない。
 試乗した1.8リットルディーゼルエンジンは、車体とのバランスがいい。アクセラには1.5リットルディーゼルエンジン(105馬力、27.5kg)が設定されていたが、動力性能は平凡だった。後継となる1.8リットルエンジンは、最高出力こそ116馬力にアップしたものの、最大トルクは27.5kgで同じ。ところが、実際に走ると力強さが大きく向上している。
 廃止された2.2リットルディーゼルのような暴力的な加速はしないが、低回転から大きなトルクがあるので扱いやすく、発進加速、追い越し加速ともに十分なパワーがある。上り坂でもエンジン回転数が低く抑えられるので室内は静かで、ディーゼルの長所が感じられる。

自然なアクセル位置


 多くの前輪駆動車(FF)は運転席の足元が狭く、タイヤハウスの張り出しがあるためアクセルがやや左側(車体中央)に寄っている。右足を自然に伸ばした位置にアクセルがないので長時間の運転で疲れやすい。これに対してマツダ3はアクセルが右寄りの自然な位置にあり、さらに小型車では珍しいオルガン式ペダルを採用しているので疲れにくい。
 安全装備は一段と充実した。人や自転車も検知する衝突被害軽減ブレーキや誤発進抑制制御などに加えて、高速走行時のステアリングアシストや、見通しの悪い交差点で左右の死角から接近する車両を検知する機能も備える。
 走行中はフロントガラスに走行速度や道路標識、ナビの案内などが表示されるので視線を大きく動かさずに運転できる。
 マツダ3は直進安定性、スムーズなコーナリング性能といった操縦性に加えて、車内の静粛性、乗り心地など1クラス上の快適性を実現し、長距離クルージングも楽にこなせる車に仕上がっていた。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴44年。紀伊民報制作部長