個性的な顔つき
まず目を引くのは大胆なフロントマスク。発光ダイオード(LED)ライトが縦に並んだデザインは個性的だ。ただし、写真ではいかつく見えるのに、実車を前にすると不思議と違和感がない。
悪路での走破性を重視し、障害物を乗り越える際にフロントバンパーなど車体下部がぶつかりにくいよう工夫している。一方で、幅広のフロントバンパーなどで都会的な外観に仕上げた「アーバンギア」もバリエーションとして用意した。最低地上高はいずれも185mmを確保している。
2.2リットルのディーゼルターボエンジンは、145馬力の最高出力を3500回転で、38.7kgの最大トルクを2000回転で発生する。ディーゼルエンジンの長所は、低い回転から大きなトルクを絞り出すことで、車重の重いミニバンやスポーツタイプ多目的車(SUV)との相性がいい。
ディーゼル車はフォルクスワーゲンの排ガス不正以来ヨーロッパで販売が落ち込んでいるが、日本では逆に輸入車を中心に搭載車種が増えている。輸入のガソリン車はハイオク指定であるため燃料代が高く、安い軽油で走ることができるディーゼルエンジンの恩恵は大きい。
デリカのエンジンは、排出ガスに含まれる窒素酸化物を浄化する尿素水液「アドブルー」を三菱で初めて採用した。アドブルーは走行距離に応じて補充が必要で、デリカの場合には千km当たり1リットルの消費が目安。タンクは16リットルなので、年間1万kmの走行だと1年に1回補充すればいい。価格は1リットル324円(消費税8%含む)。それに補充作業の手数料が540円必要なので、10リットルの補充で3780円になる。軽油はレギュラーガソリンに比べて1リットル当たり15~20円安いので、アドブルーの料金を加えても維持費は安く済む。
なお、D:5のガソリンモデル(2リットル、150馬力と2.4リットル、170馬力)は今回改良を受けておらず、従来モデルが継続販売されている。
力強いディーゼル
試乗車は、上から2番目のグレードになるGパワーパッケージ。ディーゼルエンジンによるスタートは力強く、2トン近い車体を軽々と走らせる。わずか2000回転で最大トルクを発生するので発進はもちろんのこと、どの速度域からでもアクセルを踏み込めば十分な加速が得られる。1500回転も回っていれば坂道もぐいぐい上ってくれる。ディーゼルエンジンの最も心地よい場面だ。新たに採用された8速ATがきめ細かくギアを切り替え、ディーゼルエンジンの長所を上手に引き出してくれる。
燃費も優秀だ。カタログデータは軽油1リットル当たり13.6km(JC08モード)となっているが、高速道路の走行や写真撮影も含めた約1時間の試乗で、車載の燃費計は14.0kmを表示していた。ディーゼルエンジンは一定速度で走ると燃費が伸びるので、長距離ドライブではさらにいい数字が期待できそうだ。
一方で、ガソリンエンジンに比べて音や振動が大きいという欠点もある。三菱は「遮音材と吸音材を増やすことで静粛性を大きく向上させた」としているが、発進から時速40kmぐらいまでは大きめのエンジン音が車内に響いてくる。しかしそれも速度が上がると気にならなくなる。高速道路の走行ではむしろ室内は静かに感じ、快適に走ることができた。
ディーゼルエンジンを乗用車やSUVに積極的に採用しているのはマツダ。3列シートのSUVであるCX-8に積まれている2.2リットルエンジンは、最高出力190馬力を4500回転で、45.9kgの最大トルクを2000回転で発生する。低速域でのエンジン音はマツダの方が静かだが、高速走行ではその差が縮まる。
ゆったりした室内
デリカD:5の四輪駆動の仕組みは三菱独自のAWC(オール・ホイール・コントロール)。ドライブモードは手元で2WD(前輪駆動)、4WDオート、4WDロックの3モードから選択できる。2WDは市街地や郊外での燃費を優先した走行に適し、4WDオートは高速道路や雪道、カーブの多い山道などで安定した走行が得られる。4WDロックは、深い雪やぬかるんだ未舗装路の走行、わだちにはまった際の脱出などに使う。
外観から不整地向けのイメージが強いが、高速道路では2WDのままでも直進安定性に優れ、車が勝手に真っすぐ走ってくれるという安心感があった。足回りはソフトで乗り心地がいい。背が高い車にもかかわらずカーブで不安定になることがなく、操縦性は素直だった。四角い車なので運転席からの視界が良く、左右の死角も少ないので運転しやすい。
室内は2列目、3列目シートともに乗車スペースが広く、足元にたっぷり余裕がある。2列目のシートをゆったり座れるようにセットしてから3列目に移動しても、膝の前には拳が縦に三つ入るスペースがあった。シート位置を上手に調節すれば、定員乗車でも荷室のスペースを確保することができる。
D:5に最も似合う使い方は、スキーやスノーボードなどのウインタースポーツやキャンプなどのアウトドアスポーツだろうか。都会派のミニバンにはないたくましさを秘めている。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴43年。紀伊民報制作部長