新車試乗記

ホンダ インサイト

【スペック】

全長×全幅×全高=4675×1820×1410mm▽ホイールベース=2700mm▽車重=1390kg▽駆動方式=FF▽エンジン=1496cc水冷直列4気筒DOHC、80kW(109馬力)/6000回転、134Nm(13.7kg)/5000回転▽モーター=96kW(131馬力)/4000~8000回転、267Nm(27.2kg)/0~3000回転▽燃料消費率=31.4km(JC08モード)、25.6km(WLTCモード)▽トランスミッション=電気式無段変速機▽車両本体価格=362万8800円

【試乗車提供】

ホンダカーズ田辺・稲成店
(田辺市稲成町46、0739・24・4500)

[2019年2月14日 UP]

 ホンダのハイブリッド(HV)専用車「インサイト」が4年ぶりに復活した。独自のスポーツハイブリッドi-MMDを採用し、5ナンバーサイズの5ドアハッチバックから正統派の中型セダンに生まれ変わった。

モーターが主役


 初代インサイトは2人乗りのHVとして1999年に登場し、当時の世界最高燃費を達成した。2009年2月には全面改良で5人乗りの5ドアハッチバックになり、200万円を切る戦略的な価格で話題になった。その年の5月にはトヨタがプリウスをフルモデルチェンジして200万円台前半の値付けをし、HVが乗用車の主役に躍り出た。
 2代目インサイトは全長4390×全幅1695×全高1425mmの5ナンバーサイズだったが、3代目となる新型は4675×1820×1410mmという二回り大きなセダンになった。
 世代交代でホンダのHVに対する考え方も大きく変わった。2代目インサイトは「主役はあくまでもエンジン」として、モーターはエンジンを補助する動力源に位置付けられており、出力も14馬力と小さかった。
 新型インサイトに採用されたi-MMDは、エンジンは通常の走行では発電に専念し、車輪の駆動はモーターが担当する。高速走行になるとエンジンが直接車輪を駆動するが、ほぼ発電機付きの電気自動車と言っていい。
 i-MMDは2リットルエンジンの仕様がオデッセイやCR-Vに搭載されているが、インサイトには一回り小さい1.5リットルエンジンが採用された。
2リットル仕様のモーターは最高出力184馬力、最大トルク32.1kgを発生する。それに対して1.5リットル仕様は131馬力、27.2kgと控えめだが、それでも最大トルクは2.5リットルガソリンエンジンに相当する。
 1.5リットル版はエンジンの排気量が小さいことから燃費性能に優れ、JC08モードでガソリン1リットル当たり31.4km、実際の走行に近い燃費を示すWLTCモードで25.6kmを実現している。WLTCモードによる走行条件ごとの燃費は郊外27.1km、高速道路26.2km、市街地22.8kmと公表されている。

スポーティーなデザイン


 試乗車は、最上級グレードのEXブラックスタイルだった。内外装を黒で統一し、フロントグリルには黒いクロムメッキが施してある。真横から見るとクーペのように伸びやかなデザインで、スポーティーな印象を受ける。
 内装に目を移すと、前後のシートは本革と合成皮革を組み合わせて質感を高めている。助手席前のソフトパッドがスエード調になっているのはちょっと珍しい。
 リアシートは厚みがたっぷりあって座り心地がいい。身長173cmのリポーターが座ると、前席の背もたれと膝との隙間はこぶし縦一つ半、頭上の空間はこぶし縦一つ分だが、狭い感じはしなかった。窓の位置が低めで外が見やすいので、実際の寸法以上に広く感じる。
 トランクは開口部は狭いが奥行きは深く、容量は519リットルある。セダンの必須条件である9インチのゴルフバッグは4個積める。リアシートは6対4の分割可倒式なので、長尺物も積むことができる。

滑らかな走り


 ギアの選択は、ボタンを押して切り替えるエレクトリック方式。Dレンジのボタンを押してアクセルを踏み込むとパーキングブレーキは自動で解除される。モーターは回りだすと同時に最大トルクを発生するので、発進は力強い。回転が滑らかなエンジンのことを昔は「まるでモーターのよう」と表現したが、インサイトの動力はモーターそのものだから格別にスムーズだ。
 乗り心地は車格に見合った重厚感があり、風切り音や走行音も静かだ。やや引き締まった足回りにもかかわらず、荒れた路面のざらつきもよく吸収してくれる。
 高速道路への合流も力強くスムーズだった。高速走行では、エンジンが車輪を駆動するエンジンドライブモードに切り替わるそうだが、制限速度70kmの紀勢道ではモーターで走っているのかエンジンで走っているのか区別が付かなかった。先行車に追従して走るクルーズコントロールと車線の中央を維持するステアリング支援機能があるので、緩やかなカーブが多い紀勢道をリラックスして走ることができた。
 一般道では、追い越し加速や上り坂でアクセルの踏み加減に合わせて発電用エンジンの回転が高まるが、運転者の感覚に合わせた制御がしてあるので違和感がない。トルクが大きいので急な坂道も力強く上る。
 操縦性は、ステアリングの切り始めの反応が早く、大きめの車体にもかかわらずよく曲がってくれる。重心が低いのでカーブでのロール(横傾き)も小さい。
 SUVや5ドアハッチバックの人気が高まり、正統派の4ドアセダンは今や少数派。車両本体価格320万~360万円という新型インサイトのライバルになる国産の中型セダンは、トヨタのマークXや日産のティアナぐらい。
 これが高級車や輸入車になると、レクサスISやメルセデス・ベンツCクラス、BMW3シリーズ、アウディA4など選択肢が増えるが、いずれも400万~500万円台の価格帯になる。そういったところに300万円台で買えるインサイトの立ち位置が見えてくる。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴43年。紀伊民報制作部長