個性的なデザイン
軽乗用車のハスラー、小型乗用車のクロスビーに続く「お楽しみ車」の第3弾。スズキは、ユーザーを楽しい気分にさせる車を造るのがとても上手だ。
外観は、ベースになったスペーシアとは全く別物に見える。丸いヘッドランプや黒い縁取りのフロントグリル、フォグランプを組み込んだ黒いバンパーにより、活動的でかわいらしいイメージのSUVに仕立てている。
実車を見た第一印象は「写真で見るより格好いい」だった。カタログに使われているイメージカラーの黄色から、派手な見栄えを予想していた。ところが試乗車はオフブルーメタリックという落ち着いた色合いで、街中の景色にもしっくりと溶け込んでいた。
スペーシアがベースなので室内はとても広い。運転席の足元は広く、頭上には握り拳四つ分の空間がある。後部座席もとても広い。リアシートは左右独立で前後にスライドし、一番後ろに下げると成人男性が足を組めるほどの広さになる。
後部のドアは左右とも、ボタン一つで開け閉めができるパワースライドドア。好きな位置で止められる一時停止機能も備えている。
専用のファブリックシートは撥水加工処理がしてあり、アウトドアレジャーで水にぬれたり汚れたりしても気にせず乗車できる。荷室の床は樹脂製、後部座席のシートバックも防汚仕様なので、ぬれた荷物や車輪に泥の付いた自転車を載せても簡単に掃除できる。
ゆったりドライブ
車種構成はシンプルだ。エンジンは自然吸気(最高出力52馬力)とターボ(64馬力)の2種類。いずれも発進や加速を3.1馬力のモーターで補助するマイルドハイブリッド(HV)を採用している。それぞれに前輪駆動(FF)と四輪駆動(4WD)が設定されていて、計4グレードとなる。
自然吸気とターボの価格差は8万1000円。ターボには、設定した速度で走ることができるクルーズコントロール(追従機能なし)や手元でギアを切り替えることができるパドルシフトが装備されているので、実質的な価格差はもっと縮まる。
試乗車は自然吸気エンジンのFFモデル。スズキの軽乗用車は軽量化されているので、52馬力の自然吸気エンジンでもスタートは軽快だ。HVのモーターアシストも利いているのだろう。高速道路を利用した長距離ドライブや定員乗車をする機会が少ないのであれば、動力性能に不満を感じることは少ないと思う。
足回りはソフトな味付けで滑らかに動き、乗り心地はいい。運転席の着座位置が高くて前方の見晴らしがいいので、少し大きめの車に乗っているような気分でゆったり走ることができる。
最低地上高は150mmで、一般の軽乗用車と変わらず、本格的な悪路走行には向かない。
安全装備では、前方の車両や歩行者を検知する衝突被害軽減ブレーキ「デュアルセンサーブレーキサポート」に加えて、後退時にも作動する「後退時ブレーキサポート」を全車に標準装備した。
自転車が載せやすい
試乗車を軽ハイトワゴンのオーナーである男女2人に見せて感想を聞いた。
まずはデザインから。「ハスラーのワゴン版みたい」「見た目はアウトドアモデル。それでも思ったほど派手ではないよね」となかなか好評だった。
次に2人がチェックしたのは自転車の載せやすさ。子育て世代は、子どもの送り迎えで自転車を載せる機会が多い。評価が高かったのはリアシートの倒しやすさ。背もたれの上のノブを引くと簡単に前に倒れ、さらに荷室側からシートをスライドさせることが可能だ。
「今乗っている車はリアシートを倒すのに一苦労。この車は操作がとても楽」「僕の車もやりにくい。いいな~」
そこで見つけたのが、バンパーの上にある浅い切り欠き。自転車の前輪を当てると、そのまますっと奥までころがしていける仕組み。ちょっとした工夫だが、そんな心遣いに2人とも感心していた。
荷室の床にも注目。タイヤの泥で汚れてもすぐに拭き取れる樹脂製なのがありがたい。
「自転車を載せるためにハイトワゴンを買ったのに、実際に載せると車内が汚れて掃除が大変」といった悩みも解消される。
アウトドア向けに撥水加工されたシートは、子育て世代にとってもうれしい仕様だ。
「小さな子どもは飲み物や食べ物をこぼすので、さっと拭き取れるのはとても助かる」「うちの愛車はシートに大きな染みが付いてなかなか取れない。撥水はうらやましい」
次に気付いたのは天井に付いているサーキュレーター。室内の空気を循環させ、前席と後席の温度差を少なくする。
「家族4人で乗っていると、夏場はエアコンで運転席が寒いのに、後ろの席は暑くてしょうがないと文句を言われる。ぜひ欲しい装備」「温度差をなくすのに自分で扇風機を取り付けたよ。後から出てくる車はいいですね」と、これも高く評価した。
ハイトワゴンのベストセラーはホンダのNボックス。それを昨年春にフルモデルチェンジしたスペーシアが追い上げているという構図だ。そのタイミングで個性が際立つギアが発売された。ハスラーのような人気車になるかどうか、注目だ。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴43年。紀伊民報制作部長