国内向けに開発
クラウンは、トヨタを代表する車種でありながらほぼ国内専用という特殊なポジションにある。これにより、日本の道路事情や使い勝手に合わせた車に仕上げられている。
車体は全長こそ4910mmと大きめだが、全幅は今回のモデルチェンジでも1800mmに抑えられた。また後輪駆動(FR)なのでステアリングの切れ角を大きくすることができ、最小回転半径5.3mと小回りが利く。
今やコンパクトカーでも、全幅が1800mmという車種が多い。国内の狭い道路や駐車スペースを考えるとこのあたりが限界だろう。ちなみに、アメリカで人気のトヨタ・カムリは、クラウンよりも車格が下でありながら車幅は1840mmある。
操縦性の面では、歴代クラウンは「ゆったりした乗り心地」で「ふわふわと手応えのない操縦性」の車になっていた。変化の兆しが見えたのは先代の「アスリート」というモデルから。そして、今回のフルモデルチェンジで操縦性は劇的に変化した。
「ゆったり」から「しっかり」へ
新型クラウンには性格が異なる3種類のパワーユニットが搭載されている。メインは、燃費に優れた2.5リットルのハイブリッド(HV)。直列4気筒エンジン(最高出力184馬力、最大トルク22.5kg)とモーター(143馬力、30.6kg)を組み合わせている。もう一つのHVは3.5リットルV型6気筒エンジン(299馬力、36.3kg)とモーター(180馬力、30.6kg)の組み合わせ。残る一つはスポーティーな2リットル直列4気筒ターボエンジン(245馬力、35.7kg)。2リットルターボと3.5リットルHVはプレミアムガソリン、2.5リットルHVはレギュラーガソリンを使用する。
試乗車は、3.5リットルのスポーツ仕様であるRSアドバンス。押し出しの強いフロントグリルと、クーペのように伸びやかな曲線を描くルーフが特徴。高級感を打ち出しながらスポーティーな雰囲気を醸し出している。
静かで滑らかで力強いモーターで発進し、続いてエンジンが始動すれば、有り余るパワーによる上質な加速が味わえる。追い越しなどでアクセルを強めに踏んだときには6気筒エンジンの甲高い音が響いてくる。
歴代のクラウンは乗り心地はいいものの、ゆったりしたハンドリングは運転していて楽しいものではなかった。新型クラウンは開発に当たって、世界有数の過酷なサーキットであるドイツのニュルブルクリンクで走行テストを重ね、その成果が操縦性に反映されているという。
コーナリングではステアリングの操作と車体の動きが一致し、前輪が路面をつかんでいる様子がしっかり伝わってくる。大きな車体にもかかわらず、カーブの外側に車体が引っ張られるアンダーステアが弱く、車体のロール(横傾き)も少ない。カーブでステアリングを切り足せば、切った分だけぐいぐい内側に向きを変えていく。ステアリングのわずかな操作に車体が遅れることなく反応するので、車線変更でも気持ち良く隣の車線に移ることができる。
さらに驚いたのは、標準装備されているドライブモードセレクトだ。モードを「スポーツ+」に切り替えると、エンジンを高回転に保つだけでなく、サスペンションが堅く引き締まり、ステアリングも切れ味が鋭くなる。
乗り心地を重視した「コンフォート」や中庸の「ノーマル」から操縦性は劇的に変化し、別の車に乗り替えたと錯覚するほどだった。
つながる車
新型クラウンは、新しいカローラスポーツとともに「つながる車」の第一弾として発売された。車載通信機器(DCM)を標準装備し、「Tコネクト」と呼ばれるサービスによりスマートフォンで車の状態を確認したり、緊急時の連絡サービスを受けたりすることができる。
スマホとの連携では例えば、遠隔操作でドアロックやハザードランプの点灯が確認でき、リモートでロックや消灯が可能。マイカーを通信アプリLINE(ライン)の友だちに設定すれば、ナビの目的地を登録したり、目的地まで給油が必要かどうかを確認したりできる。
非常時の対応では、車両の異常を知らせる警告灯が点灯するとその情報がコールセンターに伝わり適切なアドバイスが受けられたり、衝突事故でエアバッグが作動した際に専門のオペレーターが警察や消防に取り次いでくれたりする。
オプションのITSコネクトを利用すると、路上インフラや走行車同士で通信を行い、右折交差点で対向直進車や右折先歩行者の存在を知らせたり、信号の見落としを警告したりする。これらの利用は3年間無料。4年目以降は年間1万6千円(税別)が必要になる。
新型クラウンのライバルはBMWの5シリーズやメルセデスのEクラスだそうだ。試乗車から、今後トヨタ車が大きく変わっていくというメッセージが伝わってきた。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴43年。紀伊民報制作部長