街中に溶け込むスタイル
クロスビーをスズキは「使いやすく広い室内空間を持つワゴンとSUV(スポーツ用多目的車)の楽しさを融合させた新しいジャンルの小型クロスオーバーワゴン」と説明している。
実車を初めて見たのは東京・汐留のイタリア街でだった。オフロードを得意とするSUVでありながら、石畳が敷き詰められた都会の街並みにすっかり溶け込んでいた。
外観は「お兄さん」と呼びたくなるほどハスラーに似ているが、軽自動車の枠組み(幅1480mm以下、長さ3400mm以下)に縛られているハスラーに比べて立体感がある。
試乗車は、黒い車体に白いルーフ、車体の横にオレンジ色のアクセントを加えた3色コーディネート仕様。正面から見た顔つきはどことなく動物のようでユーモラスだ。
エンジンは、スポーツタイプの小型車スイフトにも搭載されている1リットル3気筒ターボ。最高出力99馬力、最大トルク15.3kgと、1.5リットル自然吸気エンジン並みの動力性能を発揮する。変速機は小型車に多いCVT(自動無段変速機)ではなく、6速のAT(自動変速機)。手動変速機の設定はない。
クロスビーはこのエンジンにスズキお得意のマイルドハイブリッドを組み合わせている。発電機に内蔵した3.1馬力の小型モーターで加速時にエンジンを補助して燃費を改善したり、アイドリングストップからの再始動をスムーズにしたりする。燃費は、同じエンジンを積むスイフトRStのリッター20.0km(JC08モード)に対してクロスビーは22.0kmと1割向上している。
グレードは、装備の充実したMZとベーシックなMXがあり、それぞれFF(前輪駆動)と4WDが設定されている。車両本体価格は170万円台から210万円台まで。排気量の小さいリッターカーでも200万円を超える時代になった。
力強い1リットルターボ
クロスビーは、わくわくした気持ちにさせてくれる車だ。室内は小柄な車体から想像できないほど広々としている。小さな車体で最大限のスペースを確保する軽自動車づくりのノウハウが生きているのだろう。
3気筒のターボエンジンは静かでスムーズだ。低速のトルクがたっぷりあるので低い回転から力強く、3000回転も回せば交通の流れを十分にリードできるほど軽快に加速する。動力性能に余裕があるので、高速道路の走行も楽々こなしてくれる。
足回りはソフトな味付け。小さな車のサスペンションはどうしても路面のざらつきを伝えがちだが、クロスビーは一回り大きい車のような滑らかな足回りを実現していた。車内の騒音も小さめで、特に耳障りな高めの周波数が抑えられているようだ。昨年試乗したスイフトスポーツ(1.4リットルターボ)よりもずいぶん静かだった。
操縦性は、重心がやや高いこともあり、カーブでのロール(横傾き)が大きめ。車体が外側に引っ張られるアンダーステアも少し強めに感じられた。
着座位置が高めで車体が小さいので運転しやすい。フロントガラスが立っていて、左右のガラス面積も大きいので見晴らしが良く、死角が少ないのもいい。住宅街の狭い道路や山間部の林道なども気軽に走れる。
本格的な4WD
後部座席は、スライド式のリアシートを一番後ろに下げると、身長173㌢のリポーターが座って膝の前に握り拳が縦に二つ入る。運転席と助手席のシートバックには格納式のテーブルが付いている。
荷室の床(ラゲッジボード)と後席シートバックは汚れが拭き取りやすい素材を使っているので、アウトドアスポーツを楽しんだ後のぬれた衣類や汚れた道具を気兼ねなく載せることができる。5人乗車時には荷室の奥行きは狭くなるが、床の下にはFFで81リットル、4WDで37リットル分のアンダーボックスがある。便利な収納スペースとして使えそうだ。
4WDは、通常走行では前輪駆動で走り、滑りやすい路面では後輪にも駆動力を配分する。走行条件に応じて、エンジン回転数を高めに保つ「スポーツモード」と、雪道でスムーズに発進できる「スノーモード」に切り替えることができる。また、ぬかるみや滑りやすい路面での発進を補助する「グリップコントロール」と、急な下り坂で車速を約7㌔に保つ「ヒルディセントコントロール」を標準装備している。
安全装備では、後退時に後方の障害物を検知し、衝突の危険がある場合には自動的にブレーキが掛かる「後退時ブレーキサポート」をスズキの小型車では初めて採用。歩行者も感知する衝突軽減ブレーキやアクセルとブレーキの踏み間違いによる急発進を防ぐ誤発進抑制機能、ヘッドランプのハイビーム、ロービームを自動で切り替えるハイビームアシストなどを搭載している。
オプションの全方位モニターは、車体の4カ所に設置したカメラの映像を合成し、車の周囲を立体的に360度確認できる「3Dビュー」の機能を備えている。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴42年。紀伊民報制作部長