優れた乗り心地
新型N-BOXの受注台数は9月1日の発売から約1カ月で5万2千台となり、月間販売計画の3.5倍に達した。新型発売目前にもかかわらず旧モデルの販売も好調だったことから、今年4~9月の販売は約9万4600台となり、車名別新車販売でトップになった。フルモデルチェンジ直前でも旧モデルの売れ行きが落ちないのは異例だ。
ボディータイプは2種類あり、いかつい顔つきのカスタム・ターボから試乗した。乗り込むと、まず驚くのは車内が広いこと。天井は高いし、リアシートの背もたれははるか後方にある。角張ったデザインの効果で、どの軽自動車もほぼ同じはずの横幅まで広く感じるほど。カスタムの室内デザインは黒で統一されており、スポーティーで重厚な印象だ。
搭載するターボエンジンは最高出力64馬力、最大トルク10.4kgを発生する。ターボチャージャーを改良し、アクセルを踏んだ際の反応を良くしたり、低燃費化を図ったりした。
発進は力強く、普通乗用車と変わりないスタートを切ることができる。ターボエンジンといってもある回転を境に急に力を出すのではなく、低い回転からじわりと力を発揮。1・2~1・5リットルのミニバンに乗っているような余裕を感じる。
感心したのは乗り心地がいいこと。最近は足回りがごつごつと堅い車が多いが、N-BOXはソフトな設定。それでいて、背が高い車にありがちなカーブでの横傾きが抑えられている。車の姿勢を安定させるスタビライザーをリアサスペンションに採用した効果である。
おかげで、流れの速いバイパスを走っていても軽自動車らしからぬゆったりした乗り心地が味わえる。また、車内に入り込む騒音もよく押さえ込まれており、軽自動車ではトップクラスの静粛性を確保している。これなら、長距離ドライブも楽にこなせそうだ。
車体を80kg軽量化
続いて試乗したのは、自然吸気エンジンを搭載したノーマルタイプのスーパースライドシート仕様。ノンターボのエンジンは、最高出力58馬力、最大トルク6.6kgを発生。ホンダの高性能エンジンに採用されているバルブコントロール機構VTECを軽自動車で初めて採用し、加速や燃費性能の向上を図った。
N-BOXに限らず背の高い軽ワゴン車は車体が重く、自然吸気モデルは動力性能が不足気味になる。新型N-BOXの自然吸気エンジンは、平らな場所ではまずまずの性能だった。エンジンの改良もさることながら、車体が約80kg軽量化された効果が大きい。ただし、上り坂ではさすがに力不足を感じる場面も多く、坂道を走る機会が多い人はターボモデルの方が向いている。
走行中の室内は、カスタム・ターボの方がノーマルタイプよりも静かに感じた。動力性能に余裕があるだけではなく、遮音材の使い方も違うのだろう。この差は結構大きく、ノーマル仕様の自然吸気モデルは室内の広い軽自動車という乗り心地だが、カスタム・ターボは普通車のミニバンに乗っているような満足感がある。セカンドカーではなく、ファーストカーとしても十分な車格だ。
カスタム・ターボはその代わりに値段も普通車並みで、オプションを加えると支払総額は軽く200万円を超える。
圧倒的に広い室内
室内の広さは圧倒的だ。スライド式のリアシートを目いっぱい後ろまで下げると膝の前には30cm以上の空間ができ、大柄な男性が足を組むことができる。荷室を広く使うためにリアシートを一番前に出しても、膝の前にはまだ握り拳縦一つ分の余裕がある。
このシートはスライドするだけでなく座面を跳ね上げることが可能。そうしてできたスペースにはベビーカーや鉢植えの植物など背の高い荷物も積むことができる。
シートアレンジで今回新たに加わったのが助手席のスーパースライドシート。ノーマル、ターボともG・EXに設定される。助手席を最大57cmも前後にスライドさせることができるので、車内空間をさまざまにアレンジできる。特に後部座席にチャイルドシートを設置した際には便利に使えそうだ。
リアシートの背もたれを倒すと高さ、奥行きとも広いスペースが生まれる。荷室の床が低い位置にあるので、子どもの送迎に欠かせない自転車を乗せる作業も楽にこなせそうだ。
安全性の面では、ホンダセンシングを全タイプに標準装備した。衝突軽減ブレーキや歩行者事故低減ステアリング、路外逸脱抑制機能、前後方向誤発進抑制機能のほか、先行車追随型のアダプティブ・クルーズ・コントロールまで備えている。
前後左右のガラスエリアは四角くて見晴らしがいい。スピードメーターの位置がフロントガラスに近いので、走行速度を読み取るのに視線の移動が最小限で済む。回転計左側の表示板には、平均燃費や航続可能距離といった走行情報のほか、道路の制限速度や天気予報まで表示される。
N-BOXの受注状況はノーマルが44%、カスタムが56%で、カスタムがやや多い。ターボの比率はノーマルでは12%だが、カスタムでは50%に跳ね上がる。車両価格だけを考えると、軽自動車イコール経済的という図式は当てはまらないようだ。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴42年。紀伊民報制作部長