リーフの心臓部を移植
現行のノートは2012年に登場。コンパクトカーの中では地味な存在だったが、昨年11月のマイナーチェンジでeパワーが追加され、人気に火が付いた。
eパワーは、エンジンで発電しモーターで走行するシリーズハイブリッドという仕組みを採用している。搭載の1.2リットルガソリンエンジンは発電機として働き、車輪は駆動しない。発電した電気をバッテリーに蓄え、モーターで車輪を駆動する。
エンジンで発電しモーターで走る仕組みは三菱自動車のプラグインHV、アウトランダーやホンダのアコード、オデッセイなどに採用されている。いずれも高速走行など一定の条件になるとエンジンによる駆動に切り替わる仕組みを備えている。それに対してノートeパワーは、エンジンを駆動から完全に切り離しており、発電機を積んだ電気自動車ともいえる。
eパワーのベースになっているのは電気自動車リーフで培った技術。モーターはリーフと共通で、最高出力109馬力、最大トルク25.9kgを発生する。トルクの大きさは2.5リットルのガソリンエンジン並みだ。
発電機能を持たないリーフは外部電源につないでバッテリーを充電する。1回のフル充電で走ることができる距離はカタログデータで最長280km。これに対してノートeパワーは、ガソリンさえ給油すればバッテリーの残量を気にすることなく走れるのが大きなメリットだ。
新感覚のワンペダル走行
eパワーにはノーマルモード、エコモード、Sモードの三つの走行モードがある。エコモードとSモードは、アクセルを戻すだけでブレーキを掛けたように減速する。これにより、右足をブレーキペダルに踏み替えることなく加速から停止までコントロールするワンペダル走行が可能になった。
ノーマルモードはアクセルを放しても減速しない設定になっており、一般の自動変速機(AT、CVT)と同じように運転できる。初めてeパワーを運転するのなら、このモードが扱いやすいかもしれない。
試乗車は、最上級グレードのメダリスト。まずSモードでスタートした。加速はスムーズで滑らか。同じモーターを使っているリーフはアクセルの踏み具合に応じてぐいぐい加速する力強さが印象的だったが、ノートはずいぶんまろやかになっていた。
幹線道路に出るとすぐに赤信号に差し掛かったが、アクセルをゆっくり戻すだけでじわりと減速し、そのまま停止線でぴったり止まることができた。アクセルのオン・オフに対する加減速の反応は、マニュアルミッションのローギアで走り続けているような感じだ。一時停止中の右足はブレーキペダルに。そこからの再発進は右足をブレーキペダルから放せば、アクセル操作なしにじわりと前進するクリープ走行が始まる。これなら渋滞でのゴー・ストップや車庫入れなど低速の運転もしやすいだろう。
エコモードは加速がやや緩やかになるが、モーターのパワーに余裕があるので通常の走行では十分な動力性能が得られる。
発電用のエンジンは走行中にずっと回っているのではなく、路面の状態や加減速、バッテリーの状態によって停止と始動を繰り返す。走行中は例えば、バイパスに合流する上り坂で始動し、下り坂に差し掛かるとモーターだけの走行に切り替わる。平地では再びエンジンが回り始めるといった具合だ。
停止中はエンジンが止まっているので車内は静かだ。発進もモーターのかすかな音がするだけ。速度が増すとエンジンが始動するが、その時点では路面からの騒音や風切り音が大きくなってくるので、いつエンジンが回りだしたかはメーターの表示を見なければ分からないほどだ。
アクセルだけで加減速がコントロールできるワンペダル走行は面白い。S字カーブでの切り返しや交差点での右左折も、右足の踏み加減でスピードをコントロールしながらリズミカルに通過することができる。
アクセル操作に対する車の反応が自然なので、走りだして10分ほどでこつがつかめた。慣れてしまうとアクセルとブレーキの踏み換えがほとんどなくなり、運転がとても楽になる。
小型車販売でトップに
ノートは車幅が1.7m以内に収まる5ナンバーサイズなので街中でも運転しやすい。さらにこのクラスの小型車としては室内にゆとりがあり、後部座席は大人がゆったり座れる広さがある。試乗車はメーカーオプションのプレミアムホワイトインテリアを採用。人工皮革のシートは座り心地が良かった。
eパワーが発売された昨年11月、ノートは日産自動車として30年ぶりに国内の新車販売(軽自動車を含む)で1位を獲得した。その後の販売も好調で、17年上半期(1-6月)の販売台数は約8万4千台に達し、1.6リットル以下の小型乗用車でトップになった。
eパワーが好評であることはもちろん、eパワーに興味を持って販売店を訪れて、ガソリン車を購入するユーザーも多いという。eパワーの車両本体価格が177万~224万円であるのに対して、ガソリン車は140万円から用意されているので割安に感じるのだろう。それにしても、eパワーのワンペダル走行は一度体験してみる価値がある。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴42年。紀伊民報制作部長。