80キロもダイエット
ガソリン車の燃費はどこまで向上するのか-。初代のミラ・イースはそんなテーマを持ったエコカーとして2011年に登場した。その後、スズキのアルトと激しい燃費競争を繰り広げ、当初リッター30.0km(JC08モード)だった燃費はモデル後期には35.2kmまで向上した。
今回のフルモデルチェンジでは、カタログ燃費は最大35.2kmのまま変わりないが、実際に走った際の実用燃費を改善したという。
そのために取り組んだのは車体の軽量化。軽量・高剛性ボディ「Dモノコック」の開発をはじめ、足回り部品の最適化や樹脂パーツの採用、内外装部品の合理化などを実施した。樹脂パーツはフロントフェンダー、バックドア、燃料タンクに採用。その結果、先代モデルに比べて80kgも軽くなり、前輪駆動モデルの車重はフル装備のグレードでも670kgにとどまっている。
さらに車体デザインの工夫により空気抵抗を3%減らしたり、エンジンから発電機に回転を伝えるベルトの抵抗を少なくしたりといったきめ細かい技術を積み重ねて実用燃費を改善したという。
外観のデザインは、ハの字形のフロントグリルが特徴。経済性を重視した車だが、安っぽさはない。ミラ・イースはトヨタの販売店でピクシス・エポックとして販売されており、トヨタの小型車アクアやヴィッツともイメージが重なる。
意外に広い乗車スペース
試乗車は最上級グレードのG"SAIII"。LEDヘッドランプやプッシュボタンスタート、オートエアコン、14インチアルミホイールなどを装備。さらに今回のモデルチェンジのポイントである安全装備「スマートアシストIII」も標準装備している。
試乗車に乗り込むとまず、シート位置とルームミラーの向きを調節する。ミラ・イースでも早速シートの背もたれを調節したところ、フロントガラスの上端やサンバイザーが視界に入ってしまい圧迫感があった。ワゴンタイプの天井が高い軽自動車に乗る機会が多いため、シートを立て気味に調節したことが原因。低めの天井に合わせて背もたれをやや寝かせることでちょうど良いポジションを得ることができた。
天井がやや低いことを除けば、室内は広い。運転席のシートを寝かせ気味に設定しても、後部座席は膝の前ににぎりこぶしが縦一つ半入る余裕があった。室内の広さで人気があるタントのような広大な空間はないが、大人4人が乗車して移動するのに十分なスペースがあった。
リアシートはムーヴやタントのように前後にスライドしないので、後部座席と荷室の広さを乗車人数や荷物の大きさによって調節することはできない。荷室は最低限の広さしかないので、ビジネス用途で多めに荷物を載せる場合には後部座席を使うか、背もたれを倒して2座席の車として使うことになる。そこはメーカーも織り込み済み。ビジネス向けのBグレードには、後席を倒した際に荷室の段差をなくすビジネスデッキボードを標準装備している。
内装は、黒と渋いグレーの2色を使っており、シンプルで落ち着いた仕上がり。ドリンクホルダーや小物入れといった収納スペースもたくさんある。
3気筒660ccの自然吸気エンジンは最高出力49馬力、最大トルク5.8kgで、先代の52馬力、6.1kgから3馬力、0.3kg低下している。しかし、実用域での動力性能は車体の軽量化により向上しており、出足は滑らか。
足回りは柔らかめの仕上げになっていて乗り心地もまずまずだが、荒れた路面では振動が多めに伝わってきた。操縦性の面では、ワゴンタイプの軽自動車に比べて重心が低いので、思いの外ハンドリングが良かった。カーブでは車が外側に引っ張られるアンダーステアが出るが、その度合いがコーナーの入り口から出口まで一定しているので運転しやすかった。
緊急ブレーキは歩行者にも対応
最新の安全装備スマートアシストIIIの緊急ブレーキは、これまでの対車両に加えて歩行者にも対応するようになった。フロントウインドーに取り付けたステレオカメラで前方の車両と歩行者を認識。衝突の危険があると判断すると警報でドライバーに知らせ、衝突が避けられない場合には緊急ブレーキが作動する。
最近、高齢者の事故として目立つブレーキとアクセルの踏み間違いによる急発進も防止する。車の前方や後方4~2m以内の障害物をステレオカメラやソナーセンサーが感知すると、急にアクセルを踏み込んでもエンジン出力が絞られ、急発進しないという仕組みだ。
また、軽自動車では初めて、前後バンパーの隅にコーナーセンサーを装備。駐車の際などに、隣の車や障害物に接近すると距離に応じてメーター内表示とブザーで知らせてくれる。
ミラ・イースは簡素なビジネス仕様で80万円台、最上級グレードでも120万円台という低価格の設定。ビジネスでの利用はもちろん、移動の道具として割り切ればファミリーカーとしても魅力的な選択になりそうだ。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴42年。紀伊民報制作部長。