三つの顔
新型ワゴンRは三つの顔を持っている。基本グレードのFAと中間グレードのFXは角形のヘッドランプ、上級グレードのFZは横基調のフロントグリルに上下2段のLEDヘッドランプが採用されている。個性を主張するスティングレーには、縦長のLEDヘッドランプと幅広のフロントグリルが与えられ、アメリカ車のような顔つきになった。
全体のデザインは丸みを帯びていた5代目から直線基調に変わり、後部ドアの窓枠は特徴的な山形になった。歴代のワゴンRが先代のデザインを継承してきた中で、大きなイメージチェンジとなる。
エンジンは最高出力52馬力、最大トルク6.1kgの自然吸気エンジンを基本に、モーター機能付き発電機(ISG)でエンジンを補助するマイルドHVを設定した。モーターの最高出力は3.1馬力、最大トルクは5.1kgと小さいが、先代に比べて0.9馬力、1.0kgアップした。ISGは省スペースでコストが安いので、価格競争力が重要な軽自動車に適した機構だ。
燃費は全てのグレードで先代より向上している。ガソリン仕様はリッター26.0km(JC08モード)から26.8kmへ0.8km改善。HVは32.4kmから33.4kmになり、軽ワゴンでトップの低燃費を実現している。
スポーティー仕様のスティングレーに設定されているターボエンジンは最高出力64馬力、最大トルク10.0kmを発生する。こちらもISGによるマイルドHVとなっており、ターボにもかかわらず燃費はリッター28.4kmと優秀だ。
燃費性能の向上には車体の軽量化も大きく貢献している。ワゴンRはもともと軽量だったが、今回のフルモデルチェンジでさらに車台や足回りなどを見直し、先代に比べて20kg軽くした。軽い車体は発進加速など走行性能の向上にも貢献する。
モーターの補助を実感
試乗車は中間グレードのハイブリッドFX・セーフティーパッケージ装着車。新しい車台の採用により前輪と後輪の間隔(ホイールベース)が35mm延長されたことで室内空間が広がった。
後部座席は、スライド式のシートを後ろに下げると膝の前にこぶし縦3つ分の空間ができ、脚を組んで座ることも可能。シートを一番前にスライドしてもこぶし一つ分のすき間があり、大人でも楽に座ることができる。
スピードメーターをインパネの中央部に配置するセンターメーター方式の採用により、運転席からの視界が広がった。内装のデザインも直線基調になり、室内の広さを印象づけている。
発進加速は力強さが増した。時速30kmぐらいまではモーターによるアシストを実感する。
マイルドHVはモーターだけで加速することはできないが、構造がシンプルなのでコストが安い。トヨタやホンダなどが採用するストロングHVは燃費性能が優れる代わりに構造が複雑で、ガソリン車に比べて30万円程度高くなる。マイルドHVは軽自動車では合理的な選択だろう。
乗り心地は先代に比べて向上しており、足回りから伝わるこつこつした振動が少なくなった。室内が広くなったこともあり、一回り大きめの車に乗っているような安心感がある。
安全装備も進化
装備は充実している。安全運転を支援するセーフティーパッケージは、デュアルセンサーブレーキサポート(DSBS)、誤発進抑制機能、車線逸脱警報機能、ふらつき警報機能、先行車発進お知らせ機能、ハイビームアシスト機能の六つがセットになっている。
ブレーキサポートは、単眼カメラと赤外線レーザーレーダーを組み合わせたもので、車両だけでなく歩行者も検知し、衝突が避けられない場合には自動ブレーキが作動する。
また、軽自動車で初めて、運転席前方のダッシュボード上に車速やシフト位置、ブレーキサポートの警告などを表示するヘッドアップディスプレーを採用した。視線の移動を最小限にしながら速度が確認できるので安全運転につながる。
メーカーオプションの全方位モニターは、車の前後左右に取り付けたカメラからの映像を利用して、後退時に車全体を真上から見た映像を映し出すのをはじめ左前方、後方など運転席から死角になる場所を車内のモニターで確認することができる。車庫入れや狭い場所でのすれ違いなどに便利だ。
室内の収納スペースも充実しているが、その中でも面白いのは両側の後部ドアに設けられた雨傘のホルダー。長さ90cmまでの傘を立てた状態で留めることができ、したたり落ちる雨水は車外に排出されるというアイデア装備。
新型ワゴンRは、デザインが大きく変わる一方、動力性能や燃費、乗り心地、室内の広さ、安全装備など、基本性能が着実に進化した。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴42年。紀伊民報制作部長。