車が勝手に曲がる
自動運転技術の名称は「プロパイロット」。メーカーオプションの設定だが、2017年3月までの期間限定で標準装備したプロパイロットエディションが販売される。
自動運転は、カメラやレーダーからの情報を基に車線や先行車両との距離などを認識してアクセル、ブレーキ、ステアリングを制御する。自動運転に入る操作は、ステアリングの右側にあるスイッチを押して機能をオンにし、続いてセットスイッチで車速を設定するだけ。販売店で一通りビデオを見て勉強したあと、紀勢自動車道の無料区間を走ってみた。
高速道路に入る前にあらかじめ自動運転のスイッチを入れた。南紀田辺インターチェンジ(IC)から本線に合流し、前方の車の速度に合わせて速度を設定すると自動運転の状態に入った。そのままアクセルやブレーキを踏むことなく上富田ICまで走り続けた。
紀勢道の緩やかなカーブで自動運転のセレナは、勝手にステアリングを切り込んで、スムーズに車線の中央を走り続けた。一見直線に見えるような場所でも微妙にうねったり曲がったりしているのだろう。ステアリングに手を添えていると常に小刻みに修正を繰り返していることが伝わってくる。ドライバーはそういった行動を無意識でこなしており、長時間の走行ではその積み重ねが疲労につながるのだろう。
渋滞に差し掛かるとセレナは、先行車と適切な車間を空けて停止する。3秒以内に先行車が発進した場合には何の操作もなしに再発進する。高速道路での渋滞を想定したこの機能は一般道でも動作する。
しかし、自動停止機能を体験するのにはかなり勇気がいる。先行車が減速・停止するのに合わせて反射的にブレーキを踏んでしまうからだ。自動運転を信頼してブレーキを我慢していると、セレナは一定の車間を保ちながらじわりと減速して止まった。
高速走行から完全停止まで、全速度に対応したクルーズコントロールは自動車メーカー各社が実用化している。また、車線をはみ出しそうになった場合に警報音を鳴らしたり、ステアリングをアシストして元の車線に戻るよう促したりする機能も採用されている。
プロパイロットはそれらをもう一歩進めたという位置づけだ。日産はこれをさらに発展させ、2018年には高速道路での車線変更を自動的に行う技術、2020年には交差点を含む一般道路での自動運転技術を実用化するという。
使い勝手に工夫
セレナの乗車定員は8人。車体は全長4700mm、全幅1700mm未満の5ナンバーサイズがベースになっている。試乗したハイウェイスターはフロントグリルやバンパーといった外装の違いから標準ボディーより全長で80mm、全幅で45mm大きく、3ナンバーサイズになる。それでも8人乗りのミニバンとしてはコンパクトな方なので、狭い道路でも扱いやすい。
室内長は、モデルチェンジ前に比べて180mmも長くなり、2リットル・クラスのミニバンでは最長という。身長174cmのドライバーが運転席のシート位置を合わせてから2列目、3列目に座ってみると、膝の前には握りこぶし1~2個分の余裕があった。
シートアレンジは説明し切れないほど多彩だ。今回のモデルチェンジでは、2列目のシートベルトがシート内蔵式になったので、チャイルドシートを設置したまま3列目に乗り込む際にもじゃまにならない。
使い勝手の工夫はこのほかにもある。ハンズフリーオートスライドドアは、荷物を持ったり子どもを抱いたりしていて両手がふさがっているときに、ドアの下につま先をかざすと自動で開閉する機能。バックドアは上半分だけ開閉できるので、後ろが狭い駐車場でも荷物の出し入れがしやすい。
メーカーオプションではこのほかに、駐車枠を指定すると車が自動でステアリング操作をして駐車してくれるインテリジェントパーキングアシストや、車両後方の様子をカメラからルームミラーに映し出すスマート・ルームミラーなどの先進機能が設定されている。
静かな室内
セレナは、最高出力150馬力の2リットルガソリンエンジンに2.6馬力のモーターを組み合わせたスマートシンプルハイブリッド(HV)を採用している。標準モデルでガソリン1リットル当たり17.2km、試乗車では16.6km(いずれもJC08モード)の燃費性能を得ている。HVでない仕様と比較すると、燃費の改善効果は15%程度になる。トヨタやホンダなどの本格的なHVに省燃費性能ではかなわないものの、コストが安いのが利点だ。
動力性能の面では、モーターのアシストを意識することはほとんどない。それよりもメリットを実感するのは、アイドリングストップからの再始動。セルスターターでの始動と違って、静かでスムーズだ。
運転してまず印象に残るのは視界の広さだ。前方の視界はもちろん、左右の窓ガラスが低い位置まで大きく空いているので安全確認もしやすい。乗用車からミニバンに乗り換えるとがらんとした大きなスペースにプレッシャーを感じるが、セレナは開放的なので気分が楽だった。
足回りは柔らかめのセッティングで、路面が荒れている場所でも滑らかにショックを吸収する。カーブでのロール(横傾き)は大きめなので、ゆったりした走り方が向いている。ホイールハウスに吸音材を入れた効果で路面からの騒音が抑えられており、走行中の車内は静かだった。
室内の広いミニバンは、乗員にとっては快適な移動空間だが、運転するドライバーは難行苦行を強いられてきた。自動運転機能を備えるセレナは、ドライバーにも優しいミニバンと言えそうだ。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴41年。紀伊民報制作部長。