主役はモーター
ホンダのHVは、小型モーターをトランスミッションに組み込んだi-DCD、中型車向けのi-MMD、大型車に搭載するSH-AWDの3種類がある。それをフィット、アコード、レジェンドなど車格に応じて使い分けている。
ホンダは第1世代のHVを発売した際に「主役はあくまでもエンジン」と主張していたが、オデッセイに採用したi-MMDは発想を転換し、モーターを主役に据えている。
試乗車は、装備が充実したEXパッケージの7人乗り。一般のオートマチック・トランスミッション(AT)車と同様のスライド式シフトレバーをドライブ(D)モードに入れてアクセルを踏むと、モーターのみで力強く発進する。さらにアクセルを踏み続けるとエンジンが始動するが、発電用モーターを回してバッテリーに電力を供給しているだけで、車輪を駆動するのはモーターの役割。一定速度での走行に移ると、バッテリーが十分にあればエンジンは停止し、そのままモーターで走り続ける。高速走行では、エンジンと駆動軸を直結してエンジンで走る。
このように書くととても複雑だが、走りだしての第一印象は非常に静かでスムーズ。モーターはエンジンと違い、低い回転から最大の力を出すので「最初の一歩」がとても力強い。インパネには「EV」のマークが表示されている。さらにアクセルを踏み続けるとかすかにエンジンの音が聞こえてくるが、穏やかな加速ではエンジンはアイドリング程度の回転数を保っている。速度が上昇しているのにエンジン回転が上がらないのは不思議な感覚だ。
急加速や上り坂ではエンジン回転が上昇するので、エンジンで走っているような錯覚を起こす。しかしこれはより多くの電気を起こすために回転を上げているだけで、車輪に動力は伝えていない。最高出力184馬力のモーターは強力。上り坂の途中でアクセルを踏むと車体が押し出されるように加速する。
カタログデータでリッター26.0km(試乗車は25.4km)の燃費は、排気量1.8リットル以上のミニバンではクラス最高。HVのライバルを見ると、トヨタのノア、ヴォクシー(1.8リットルHV)が23.8km、上級のアルファード、ヴェルファイア(2.5リットルHV)が19.4km、日産セレナ(2.0リットルHV)が16.0kmとなっている。
オデッセイのガソリン車(2.4リットル)は13.4~14.0km。省燃費志向が高いことから、販売の7割をHVが占めているという。
低重心で素直な操縦性
オデッセイは箱形のミニバンに比べて床が低く、車高も低い。室内の高さは同等なのに、背の高いミニバンのように「背中に大きな空間を背負っている」というプレッシャーがない。そのため、大きめの乗用車のような感覚で運転できる。
重心も低く設計されていることから、コーナリング性能は箱形のミニバンとは明らかに違う。カーブではロール(横傾き)が少なく、ステアリングの操作に素直に反応する。山道での運転が楽しめるほどだ。
中・高速のクルージングも得意種目。バイパスを60kmで走っていると、室内は静かで快適だ。バッテリーの充電状態によってエンジンが回ったり停止したりしているのだろうが、メーターの表示を見なければどのモードで走っているのか全く分からない。サスペンションが滑らかに動くので、荒れた路面でも心地は良かった。
2列目はVIP席
このクラスのミニバンは、ファミリーユースというよりも、高級4ドアセダンに代わるVIPカーとしての利用が多いという。試乗車は、オプションの本革シートと木目調の内装を装備しておりとても豪華だった。その代わり、価格も400万円を超える。
4人乗りと割り切って2列目シートを一番後ろまでスライドさせると、足元には1mほどの空間ができる。ふくらはぎを支えるオットマンも備えているので、とてもリラックスして乗車できるだろう。このシートは、リクライニングさせた時に肩から頭にかけての角度を起こしてくれる機構まで付いている。
7人乗りに設定して3列目シートに座ると、膝の前には握り拳が縦に一つ入る余裕ができる。座面が低いので、膝が少し持ち上がるような姿勢になる。大人3人の乗車は少しきゅうくつだが、2人ならリラックスして座ることができる。この3列目シートは、使わないときには荷室の床下にぴったり格納できる。
運転席のメーター内には走行中、道路の制限速度、一時停止、追い越し禁止、一方通行のマークが表示される。これは、安全装備であるホンダ・センシングの機能の一つ。衝突軽減ブレーキは車両だけでなく人も感知するほか、路側帯にはみ出して人をはねそうになった場合にはステアリングを制御して事故を回避する機能も備わっている。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴41年。紀伊民報制作部長。