アルトと共通のデザイン
イグニスは全長3700mm、全幅1660mm、全高1595mmの車体に排気量1.2リットルのエンジンを搭載している。トランスミッションは自動無段変速機(CVT)のみ。駆動方式は前輪駆動(2WD)とフルタイム4WDが用意されている。
外観は軽乗用車アルトのお兄さんのようなイメージ。小さいながらもタイヤを四隅に配置したデザインで個性を主張している。真後ろから見るとリアフェンダーのふくらみはボリューム感たっぷり。その上に載るキャビンが台形に絞り込まれているので安定感がある。
正面からは大きめのライトが目を引く。最新の車は鋭い顔つきのデザインが多いが、イグニスはどこか親しみやすいイメージを作りだしている。
内装で目を引くのは、アップルのアイパッドを張り付けたようなナビゲーション画面。iPhone(アイフォーン)と連携するアップル・カー・プレイに対応しており、通話や音楽再生、メッセージのやりとりなどをナビ側で操作できる。
上級グレードにはCVTのギアを手元で操作できる7速マニュアルモード付きパドルシフトやクルーズコントロールを搭載している。
リッター28kmの低燃費
スズキのハイブリッドシステムはトヨタやホンダなどのように大きくて強力なモーターを使うのではなく、モーター機能付き発電機(ISG)でエンジンを補助する仕組み。最も燃料を消費する加速の際に最大で30秒間動作する。これによりガソリン1リットル当たり28.0kmの優れた燃費性能を得ている。本格ハイブリッドに比べると価格が安いのが特徴だ。
ISGのもう一つの効用は、アイドリングストップからの再始動が静かでスムーズなこと。イグニスは減速時に時速13kmを下回るとエンジンが停止するので、一時停止の交差点でもエンジンが停止と始動を繰り返すことがある。ISGによるスムーズな再始動は運転のストレスを大幅に減らしてくれる。
試乗車を前にした第一印象は「小さいな」というもの。日産の小型車マーチより小さく、トヨタのパッソより少し大きい。最高出力91馬力の1.2リットルエンジンは元気がいい。880kgと軽い車体にモーターのアシストも加わり、スタートは軽快だ。ただし、CVTは燃費を重視してエンジン回転を低めに保つ設定になっているので、活発に走るのなら意識的にアクセルを強く踏むか、パドルシフトを利用するのがいい。
足回りは堅めで、路面の荒れたところでは少し跳ねるような傾向がある。ステアリングは重めでしっかりした手応えがあり、バイパス道路での直進安定性もよかった。車内に入り込んでくる騒音(ロードノイズ)は、荒れた路面ではやや大きめに感じた。
軽のノウハウを投入
軽自動車で培ったスズキのノウハウが詰まっているのだろう。コンパクトな車体にもかかわらず室内は広く感じる。リアシートは前後に165mmスライドするので、後席に人を乗せるときには膝の前を広く空け、荷物が多いときには荷室スペースを広げることができる。背もたれの上部にスライド用のノブが設けられ、荷室側から操作できるので便利だ。リアシートの前後スライドはワゴンタイプの軽自動車では当たり前になっているが、小型車での採用は意外に少ない。
運転席の着座位置は高め。身長174cmのリポーターで頭上には握り拳縦三つ分のスペースがある。後部座席も高めに設定されており、見晴らしがいい。膝前のスペースは握り拳縦半個分、頭上は1個半分だがきゅうくつな感じはなかった。大人4人が乗ってのドライブにも十分なスペースだ。
全車にオプションで装着できるスズキセーフティーパッケージ(9万7200円)は、歩行者も検知して衝突被害を軽減するデュアルカメラブレーキサポートをはじめ、誤発信抑制機能、車線逸脱警報機能、ふらつき警報機能、先行車発進お知らせ機能がセットになっている。また、同様にオプションの全方位モニターは、自車を見下ろしたような映像や側面の映像をナビに映し出す。
SUVとしての機能も充実している。最低地上高は180mm。4WD車には、急な下り坂で速度を時速7kmにコントロールするヒルディセントコントロールや、ぬかるみでタイヤが空転しないグリップコントロールを装備している。
小回りが利く小さな車体と軽快なエンジン、優れた燃費性能は、日常の足として使いやすそうだ。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴41年。紀伊民報制作部長。