意外にコンパクト
ロードスターは2人乗り、後輪駆動(FR)の小型スポーツカー。この1年余りで軽のスポーツカーであるダイハツのコペン、ホンダのS660が相次いで発売されたほかトヨタ86、スバルBRZも根強い人気があるなど「走りを楽しむ車」が復活しつつある。
販売店の駐車場で待っていると、奥のピットから黒いロードスターが出てきた。写真では大きく見えるが、実際に目の前にあるロードスターはかなりコンパクトだ。それもそのはずで、全長は4mを切っており、フィットやヴィッツといったコンパクトカーとほぼ同じ寸法である。それに対して全幅は1735mm、全高は1235mmと低くて幅が広い。全幅が1700mmを超えているので排気量1.5リットルながら3ナンバーになる。
試乗車は6速のマニュアルトランスミッション(手動変速機=MT)搭載車。ロードスターにはMTと6速オートマチック(AT)があるが、マツダのまとめでは購入者の7割以上がMTを選択するという。MTの車を運転する機会はめったになく、試乗では2012年7月のスイフト・スポーツ以来である。
地をはうような低さ
試乗した日はあいにく雨が降り出しそうなどんよりした曇り空だった。キャビンにはあらかじめソフトトップ(ほろ)が装着されており、オープンカーならではの爽快感は味わえなかった。
ドアを開けて乗り込むと、シートの位置が何しろ低い。普段乗っている乗用車と比べると地をはうような低さだ。室内は黒で統一されており「コックピット」(操縦席)と呼びたくなるような囲まれ感がある。2人乗りのキャビンは小さめだが横幅がたっぷりあるので狭い感じはしない。ほろまでの頭上スペースは、にぎりこぶしが縦に1個入るぐらい。以前に試乗したダイハツのコペンに比べるとずいぶん広く感じる。
エンジンは無鉛プレミアムガソリン(ハイオク)仕様で、最高出力131馬力、最大トルク15.3kgを発生する。アクセラなどに積む1.5リットルのレギュラーガソリン仕様を20馬力、0.6kg上回る。
プッシュ式のスタートボタンを押すと軽いクランキングでエンジンが始動した。シフトノブにぷるぷるとアイドリングの振動が伝わる。このあたりはMTならではの動きである。走りだす前から気分が高まってくる。
久しぶりのMTということで心配していたクラッチだが、軽くてつながりもスムーズだった。エンジンは高回転型にもかかわらず低速のトルクが十分にあり、低い回転でクラッチをつないでもスムーズに走りだす。販売店を出たとたんに渋滞に差し掛かったが、発進と停止の繰り返しも苦にならず、拍子抜けするほど乗りやすかった。
優れたコーナリング性能
渋滞を抜けたところで少し強めにアクセルを踏んでみた。エンジンは3000回転を超えたあたりから勢いを増し、軽快な音ともにシャープに吹き上がる。車重がおよそ1トンと軽いため、1.5リットルのエンジンでも十分活発に走ることができる。
足回りは引き締められていて、カーブでも車体はほとんど傾かない。それなのに意外なほど乗り心地がいい。路面の荒れた場所では常にコツコツと振動を伝えてくるが、トヨタ86がまるで板の上に乗っているようなガチガチに堅い足回りだったのに比べるとはるかに快適だ。
短時間の試乗だったのでカーブが続く山道は走っていないが、コーナリング性能は相当高い。一般の乗用車が車体を大きく傾けながら抜けていくようなカーブを、ハンドルをわずかに切り込むだけであっけなく通過した。
ロードスターに試乗したあとで乗用車に乗り換えたら、まるでふわふわのマットレスに乗っているように感じたほどだ。その車は主にヨーロッパで販売している車種なので足回りは国産車としては堅いが、それでもロードスターとの差は大きかった。
安全装備では、車線変更時に後方や側方から接近する車両を検知するブラインド・スポット・モニタリングや自動的にヘッドランプのハイビームとロービームを切り替える「ハイ・ビーム・コントロールシステム」、車線逸脱警報システム、カーブの進行方向にヘッドライトを向ける「アダプティブ・フロント・ライティング・システム」が上級グレードに設定されている。
ロードスターの購入者は40代を中心に20代から60以上まで幅広いという。さりとて趣味の車であるだけに、オーナーへのハードルは高い。
リポータープロフィル
【長瀬稚春】 運転免許歴40年。紀伊民報制作部長。