新車試乗記

トヨタ プリウス Sツーリングセレクション(E-Four)

【スペック】

Sツーリングセレクション(E-Four)
全長×全幅×全高=4540×1760×1475mm▽ホイールベース=2700mm▽車重=1440kg▽駆動方式=電気式四輪駆動▽エンジン=1797cc直列4気筒DOHC、72kW(98馬力)/5200回転、142Nm(14.5kg)/3800回転▽フロントモーター=53kW(72馬力)、163Nm(16.6kg)▽リアモーター=5.3kW(7.2馬力)、55Nm(5.6kg)▽トランスミッション=電子式無段変速機▽燃料消費率=34.0km(JC08モード)▽車両本体価格=282万2727円

【試乗車提供】

ネッツトヨタ和歌山・田辺店
(田辺市新庄町1895、0739・22・4979)

[2016年1月14日 UP]

 今回の試乗車はトヨタのハイブリッド車(HV)新型プリウス。ベースグレードでリッター40km超えという世界最高水準の燃費性能を実現するとともに、従来モデルで弱点とされていた乗り心地や操縦性を改善し、上質な乗用車に仕上げた。個性的なデザインは好き嫌いが分かれそうだが、実車は写真よりも落ち着いて見える。

写真と異なる実車の印象


 初対面のプリウスは濃紺のカラーを身にまとっていた。全体の造形は従来型のイメージを引き継ぎながら全長が60mm、車幅は15mm大きくなった。一方で車高は20mm低くなり、ボンネットの先端も70mm下げられた。
 顔つきは最近のトヨタ・デザインの流れをくむもので、ずいぶん個性的だ。歴代のプリウスも先進的なデザインを採用していたが、見慣れると「当たり前」になってしまうのがトヨタ・デザインの不思議なところだ。実車は写真で見るのとは少し印象が異なり、車体の色によっては意外に地味な印象を受けることもある。
 排気量1.8リットルのエンジンは最高出力98馬力。これを72馬力のモーターでアシストする。エンジンの熱効率を引き上げることやハイブリッド・システム全体を見直すことで燃費を改善した。「燃費スペシャル」ともいえるベースグレードのEタイプはガソリン1リットル当たり40.8km(JC08モード)、装備が充実したグレードでも37.2kmと、従来より2割も向上している。
 車種構成はEタイプのほか、基本装備が充実したS、衝突回避支援システムなどを標準装備したA、豪華装備のAプレミアムの四つがあり、E以外には17インチタイヤを装備するツーリングセレクションが設定されている。
 また、プリウスでは初めての四輪駆動車「E-Four」が設定された。雪道での発進など滑りやすい条件では、7.2馬力のモーターが後輪を駆動する。
 トヨタは衝突防止の自動ブレーキなど安全装備の採用で出遅れていたが、ここにきて一気に搭載車種を増やしている。プリウスに採用したセーフティーセンスPは、前方の車両だけでなく歩行者も検知して警報を出したり自動ブレーキを作動させたりする高性能なシステムになっている。

静かで滑らかに


 試乗車は四輪駆動のSツーリングセレクションE-Four。運転席のドアを開けると、シートの着座位置がずいぶん低くなったことに気がつく。従来モデルに比べて着座位置は59mmも低くなった。車全体の重心も下がっているという。
 ギアをドライブに入れてアクセルを踏むと、無音のままモーターの力で走りだす。柔らかめの足回りは、少し走っただけで動きが滑らかになっていることが分かる。車全体の遮音性もずいぶん向上している。先代のプリウスはHVシステムにコストがかかっていたため乗り心地が犠牲になり、ざらついた感触は1ランク下のコンパクトカーに近かった。新型の乗り心地は一気に2~2.5リットルクラスに迫るほど向上した。
 路面が荒れた区間を走っても室内に入り込んでくる騒音が小さくて快適に走ることができるし、工事で補修を繰り返したような凹凸のある道路でも不快な振動やショックを滑らかに吸収してくれる。後輪のサスペンションが固定式から独立式に改められた効果だろう。
 新型になってエンジン、モーターとも出力が下がり、システムの最高出力は従来の136馬力から122馬力に低下した。しかし、そんなハンディは全く感じない。走行モードはシフトレバー横のスイッチでノーマル、エコ、パワーの3段階に切り替えられるが、ノーマルモードで十分に力強い走りが得られる。日常の走行で不自由することはないだろう。
 パワーモードにするとアクセルに対する反応が敏感になり、エンジン回転も高めに保たれる。モーターのアシストも強力になるようで、街中では活発すぎて持て余すほどだった。山道を速めのペースで走ったり、通行量の多い幹線道路で機敏な加速が必要だったりするときにはいいだろう。
 燃費を重視したエコモードは、アクセル操作に対する反応がゆったりとして出足も穏やかになる。省燃費運転に徹するとき以外はおっとりし過ぎていてちょっと使いにくい。

運転席の視界良好


 ハンドリングは外観から想像するようなスポーティーなものではなく、あくまでも素直で滑らかな動きに徹している。コーナーの奥で少し外側に引っ張られるアンダーステアを感じるが、無理な運転をしないようあえてそういった味付けにしているのかもしれない。
 プリウスは減速する際のエネルギーを電気に変える回生ブレーキを採用しており、従来型はブレーキを踏んだときの感触が不自然だった。新型はガソリン車と変わらないごく自然な効き方をするようになった。
 低く構えた外観にもかかわらずガラスエリアは広く、運転席からの視界は広い。前方が見やすいだけでなく、前席左右の安全確認もしやすい。ただし後方は見にくいので、バックカメラは装着したい。
 後部座席もシート位置が低めで、腰が沈み込むタイプ。乗車スペースは過不足なく、身長174cmのリポーターが座ると、頭上にはにぎりこぶし縦1個分、膝前には1個半分の空間ができる。
 新型プリウスは、スタイルの好き嫌いはともかくとして、上質な乗り味が得られるバランスの取れた車に仕上がっている。発売以来注文が殺到しており、これから契約しても納車は6カ月ほど先になるというのが難点。乗り換えを検討している人は愛車の車検切れの時期を考えて、余裕を持って準備したい。

リポータープロフィル

【長瀬稚春】 運転免許歴40年。紀伊民報制作部長。